「城崎百人一首」も今年で十八回目を迎えた。城崎の駅前にも檜づくりの素晴らしい「投書箱」が設置されており、その他何か所にも用意され城崎の宿にも応募用紙が置かれている。
文学や短歌は、先ずは「現実」に足を置いてうたうのであるが、その底にある「本質」や、その先にある「幻想」や「理想」をしっかり透視してうたい込む所に特徴があり、それつかまえて歌い込まれなければ良い〈歌〉にはならない。
この度は、短歌が一九一人の三四五首集まった。小学生、中学生から九十代の方々の投稿があり嬉しいことであった。
今回は最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百首を選んで表彰し、「城崎百人一首」として冊子にして記念した。
城崎温泉にこのところ多くの外國人の方が来られるようになった。その中でも艶やかな浴衣を着た女の方々が祭りのごとく盛り上がっている所を詠んだのである。
兵庫県豊岡市 柴田初子
町のあらゆるところに設置されてある。「足湯」は、城崎の名物の一つである。「小(ち)さき小(ち)いさき足がよくきいている。
兵庫県豊岡市 四角澄朗
このところ町が賑わっている反面、よくみると「カーテンのあかない家」が増えてきたのであろう。「表札四人」の「表札」が静かに沈黙しているのである。
京都府舞鶴市 新谷洋子
まあるくて緩やかな上りと下りを持つ「太鼓橋」を息子夫婦にいたわれ歩いておられる様子が髣髴してきて、微笑ましい。
兵庫県川西市 佐保田明子
下の句の「笑いかけて来話しかけて来」の繰り返すようなリズムが効果を上げている。城崎の情緒をよくとらえている。
兵庫県神戸市 水田明
「城崎」に「ここ」とルビを振って、何度も来たことや親しみを込めてうたわれている。外湯巡りの「一の湯」を出て、また次に行く勢いも感じられる。
作品 | 県・市 | 氏名 | |
佳作 | 二足、三足とはきて歩みしわらじをばいつの日にか温泉寺におさめむ | 兵庫県加古川市 | 増田富美代 |
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佳作 | 雪景色みやげにせんと外国人(とつくにびと)は浴衣のままにシャッターをきる | 兵庫県豊岡市 | 髙岡千春 |
佳作 | 新しき年をむかえて新しい白き暖簾(のれん)の柳湯(やなぎゆ)の文字 | 兵庫県豊岡市 | 山田まゆみ |
佳作 | 志賀直哉柳の道を歩きつつ小説練りしか100年前に | 兵庫県高砂市 | 鈴木裕子 |
佳作 | こうのとり小枝くわえて家つくり我が吐く息と姿重なる | 兵庫県宝塚市 | 藤田千里 |
佳作 | 旅番組に城崎映ると伝えたり思わぬ友の音沙汰巡る | 兵庫県朝来市 | 谷藤眞佐惠 |
佳作 | 城崎の外湯めぐりで盆暮るる温泉寺守るごとくに蝉時雨 | 京都府京都市 | 中岡ひろみ |
佳作 | ひさびさに息子と入った温泉は三十年ぶりに背中を合せ | 兵庫県篠山市 | 明松康彦 |
佳作 | しとしとと露天に浸かりて休む日の頭と肩の冷たく温(ぬ)くき | 奈良県北葛城郡 | 前田美咲 |
佳作 | 城崎の木屋町通りを散策して花吹雪浴び道祖神見る | 三重県名張市 | 髙西宏 |
佳作 | 冬の雨体の芯まで凍らせる城崎の湯がじわり染みくる | 京都府京都市 | 速水良悟 |
佳作 | また来たい願いを込めて投句箱湯町(ゆのまち)城崎笑顔行き交う | 兵庫県川西市 | 佐保田全弘 |
佳作 | 日傘さし孫らと歩く城崎の胸いっぱいに想い出つめて | 兵庫県豊岡市 | 徳網朝子 |
佳作 | 地蔵湯の一番札をもらわんと来ればひとりがすでに佇む | 兵庫県神戸市 | 亀谷たま江 |
佳作 | 城崎温泉(きのさき)に下駄は闊歩(かっぽ)す洋臀部時おり聞こゆ片言(かたこと)日本語 | 東京都足立区 | 佐藤春夫 |
佳作 | 城崎の女将(おかみ)の迎える方言は懐かし吾の故郷(ふるさと)に似て | 兵庫県豊岡市 | 松井いつ子 |
佳作 | 背の重み城崎の湯に放(はな)ち置くリフレッシュしてさあ明日(あした)へと | 京都府京丹後市 | 谷口利枝 |
佳作 | 城崎の湯は肌によきと自慢せる友と汗かき湯に浸かりおり | 兵庫県養父市 | 西村弘子 |
佳作 | 入所するホームに母と泊まりし夜円山川に花火のあがる | 京都府京丹後市 | 赤岩邦子 |
佳作 | 玄武(げんぶ)経て円山川を下り来てカラコロ歩く城崎外湯(そとゆ) | 福井県越前市 | 馬場春之 |
佳作 | もう一度読んでみようか志賀直哉暗き本棚へと春の風 | 兵庫県明石市 | 小田和子 |
佳作 | 緑濃き梅雨(つゆ)の晴れ間に鴻(こう)の湯(ゆ)で露天に光る石模様(いしもよう)見ゆ | 兵庫県豊岡市 | 畑中照久 |
佳作 | 温泉寺観光客(かんこうきゃく)の賑わいのとぎれて聞こゆ鶯の声 | 兵庫県明石市 | 池田德子 |
佳作 | お湯の町城崎すべてがおもてなし鯉に柳に下駄の音まで | 兵庫県西宮市 | 小谷安一 |
佳作 | 足湯して素肌に赤き靴下(くつした)がたしかに燃ゆる冬の城崎 | 愛媛県伊予市 | 重松希美 |
佳作 | 城崎の桜に今年も逢いたいとみぞれ降るなか自転車をこぐ | 京都府京都市 | 林久美子 |
佳作 | 夜桜を見ればやすらぐこの心これが城崎木屋町通り | 徳島県阿南市 | 壷内晴生 |
佳作 | 孫と来しロープウェーの新緑を目にあふれさせふるさと思ふ | 兵庫県豊岡市 | 野口典子 |
佳作 | 七十年(ななとせ)の妻を連れ出す七ツの湯命新らし城崎温泉 | 山梨県北杜市 | 石原富義 |
佳作 | ファミリーで楽しむすがた数多(あまた)みゆ出石(いずし)城下の春あたたかし | 大阪府豊能郡 | 中川玉江 |
佳作 | 夕映えの冬田に二羽のこうのとり何かいいこと運んでおいで | 京都府京丹後市 | 田﨑千草 |
佳作 | 空揺れた柳が揺れて蝶が舞う川面に映る城崎の春 | 大阪府堺市 | 櫻淵陽子 |
佳作 | 愛宕橋渡れば宿の灯が点り女将が出迎う蟹が待ちいる | 兵庫県芦屋市 | 加島清子 |
佳作 | 聞きなれぬ言葉づかいをする人に振り向き「城崎ことば」とぞ知る | 静岡県磐田市 | 松田菜々 |
佳作 | 久々に夫と連れ立ち訪(おと)なへる城崎の街の風やはらかし | 鳥取県鳥取市 | 北尾嬌子 |
佳作 | 夕迫る湯街通(ゆまちどお)りにどっと来てふれ合う袖(そで)の浴衣華やぐ | 兵庫県豊岡市 | 藤田幸美 |
佳作 | さざなみの川面を眼下にながめつつ首までつかり心もとける | 愛知県豊橋市 | 城憲男 |
佳作 | 良き酒と仲間と巡る城崎で浴衣にかかる粉雪白し | 岐阜県揖斐郡 | 香田明彦 |
佳作 | ひたすらにカニの身ほじる沈黙にあなたとわたし救われている | 徳島県阿南市 | 安本生美 |
佳作 | 幸せがよみがえる街城崎に童(わらべ)のごとく射的せし父 | 兵庫県加古川市 | 渡瀨靜子 |
佳作 | ふるさとの老人会の総会に城崎一泊旅行と決まる | 京都府福知山市 | 堀蒼浪 |
佳作 | 城崎に夕鶴舞いて湖畔からロープウェイの清きを望まん | 京都府相楽郡 | 北谷匠 |
佳作 | お祝いのちゃんちゃんこ浴衣着に両親早変(おやはやが)わり外湯に向う | 兵庫県豊岡市 | 小幡晴男 |
佳作 | 春さくら夏は螢に秋もみじ漫(そぞ)ろ歩きの木屋町通り | 兵庫県豊岡市 | 原田政代 |
入選 | コウノトリ城崎温泉浴衣(ゆかた)下駄花火灯篭(とうろう)夏の思い出 | 大阪府豊中市 | 松本愛子 |
入選 | 城崎で母は10歳若返り喜ぶ目尻しわひとつ増え | 兵庫県三田市 | 小野まどか |
入選 | 柳湯の札を手にして喜んださらに欲出て走る御所の湯 | 奈良県奈良市 | 稲原美子 |
入選 | 幼な子と登りし山もいつの日か険しき山となりて行くなり | 香川県木田郡 | 三浦洋子 |
入選 | リオ五輪より城崎は熱すぎる湯船に人ひと国際的に | 岡山県倉敷市 | 大森勝彦 |
入選 | 湯に浸(つか)り旅の疲れを休めるも見る夢もまた旅路の続き | 島根県松江市 | 苅田奈菜子 |
入選 | まだ青きいちょうの側の御霊場薬師の湯にてのどを潤おす | 京都府福知山市 | 岩城武人 |
入選 | 何も彼(か)も忘れ極楽(ごくらく)露天の湯頬にかすかに海風そよぐ | 兵庫県豊岡市 | 森田洋 |
入選 | この土地で二人の永遠決めました愛を育む城崎温泉 | 大阪府大阪市 | 井上翔平 |
入選 | 城崎で我が子と見上げる夢花火長き思いがついに叶いぬ | 広島県呉市 | 津島週逸 |
入選 | 火の用心夜更け拍子木足音にからりころりの城崎恋し | 京都府京都市 | 林基義 |
入選 | 君が好き夜冷えした吾に躊躇なく羽織をかけてくれる君が | 兵庫県高砂市 | 鈴木美樹 |
入選 | 箏の爪を麦わら細工の箱にしまう爪弾く音色もやさしくなるらん | 兵庫県西脇市 | 大江美典 |
入選 | 夏空の風情漂う温泉街抜けて赴く森(き)の先(さき)の海 | 大阪府大阪市 | 法村航平 |
入選 | ゆかたきて桜なみきをすすむとき神風ふいて花はちりゆく | 兵庫県伊丹市 | 乾遥斗 |
入選 | カニ食べて紅白も見て年越(としこ)して家族で過ごす城崎温泉 | 徳島県徳島市 | 木村蘭子 |
入選 | 春菊を鍋でぐつぐつ煮こむとき但馬牛見る右目でちらり | 兵庫県明石市 | 星野奈未 |
入選 | 時経るもあたらしきかな城崎の水面に映る君をし想へば | 兵庫県神戸市 | 西尾信員 |
入選 | 帰る頃急に降り出すやらず雨(あめ)僕らを城崎(ここ)からやらじと降るのか | 奈良県生駒市 | 水上侑樹 |
入選 | 秋晴れの城崎の湯につかりつつ日常の日を忘れんつかのま | 神奈川県平塚市 | 山口崇行 |
入選 | 後ろ見に金髪ギャルが浴衣着て見返り美人はアオイ眼の女 | 京都府京都市 | 小谷一弘 |
入選 | 懐かしい思い出語り温まる変わらぬ景色城崎の町 | 兵庫県神戸市 | 池田茜 |
入選 | 城崎で心地よい風春の宵(よい)浴衣なびかせ外湯をめぐる | 奈良県北葛城郡 | 安田瑞穂 |
入選 | コウノトリライブで見つつ直哉らの跡をたどりて城崎に来つ | 奈良県香芝市 | 肘井淳子 |
入選 | 城崎の三木屋の床に寝転びて秋風ともに文士を想う | 愛知県名古屋市 | 堰合翼 |
入選 | 城崎でまた会う日まで元気でと友の便りの文字踊りけり | 福岡県田川郡 | 独活山強実 |
入選 | 城崎に花ももみじもいとよかれいつも「きんさい」とさそわれている | 兵庫県丹波市 | 中下重美 |
入選 | 嫁菜(よめな)咲く城崎の地を尋ねたしわが子に似合う花をもとめて | 大阪府大阪市 | 塩崎知 |
入選 | 露天風呂は座禅会のように清まりて心は白一色なり | 大阪府大阪市 | 日野江美 |
入選 | 湯につかり火照(ほて)った身体(からだ)でお散歩へあなたの横だと火照る心も | 大阪府大阪市 | 飛松祐輝 |
入選 | 城崎で祝う二十歳(はたち)の記念日に過ごすひと時濃(こ)くゆったりと | 大阪府箕面市 | 北田玲 |
入選 | 夏の空きらきら光るゆめ花火いっしゅんだけのとくべつな花 | 兵庫県豊岡市 | 山根未釉 |
入選 | 足湯して頬紅染めし昨春(さくしゅん)と手つなぎ下駄を鳴らす今日(こんにち) | 兵庫県姫路市 | 酒井翔大 |
入選 | 昼は海夜は外湯と在りし日の外湯めぐりの城崎の日々(ひび) | 京都府京都市 | 坂本静子 |
入選 | 湯の街を右へ左へ行く人の今日の顔(かんばせ)なお美しき | 滋賀県大津市 | 寺本那由他 |
入選 | やっとこさ桃色ゆかた着つけるも外湯では帯解くためらいもなく | 兵庫県神戸市 | 陶山春菜 |
入選 | 城崎や柳越しから見る君の青写真かく二人の未来の | 大阪府大阪市 | 山田将司 |
入選 | 城崎に燃ゆる湯煙(ゆけむり)空をぬけ去(さ)りゆく際(きわ)の恋ぞつのりぬ | 奈良県奈良市 | 白坂森紗 |
入選 | 君が為のぼうの月にさつき晴れ旧知の友を夢に浮かばせ | 兵庫県神戸市 | 河本悠太 |
入選 | 麦わらの文箱(ふばこ)にいにしえ思い馳(は)せ我にかえりぬ明日への現実 | 青森県平川市 | 阿保詩子 |
入選 | あーあついでもたのしかったおんせんだいつかまたくるぞ城崎温泉 | 広島県廿日市 | 浜崎颯太 |
入選 | 夏が去り君が手を振る夢を見て青色の恋を今年も待ってる | 富山県富山市 | 石原幸 |
入選 | By the waterfall Where the water is salty So declares Aimee | 京都府舞鶴市 | メリッサ・アルマンサ |
入選 | 秋日和外湯めぐりの下駄の音遠鳴りの祭太鼓に歩(ふ)をせかさるる | 大阪府大阪市 | 岡本美智子 |
入選 | 兼好の歌碑(かひ)見てこころの軽くなり再び湯へと我が身の沈む | 兵庫県明石市 | 小田慶喜 |
入選 | 投句会が結びし縁の城崎旅情温泉寺参詣と小鯛の笹漬け | 大阪府箕面市 | 中本智恵美 |
入選 | 銀婚の妻と並んで外湯行く川は流れて風が頬切る | 兵庫県神戸市 | 岸野孝彦 |
入選 | 気に入った麦わら指輪つけてみる指に点(とも)った小さな花火 | 広島県呉市 | 津島衣葉 |
入選 | 観世音(かんぜおん)巡りきたりてまた思ういづこが浄土か現実なのか | 京都府木津川市 | 駒谷潤也 |
入選 | 城崎の柳の風を身にまとい川面に映るはコウノトリかな | 大阪府箕面市 | 永田有季 |