「城崎百人一句」も第八回目をむかえた。今回は四歳のお子さんから、九九歳の方までの応募があり「俳句」の広がりのすごさを思ったことである。俳句には、「五七五」という形式の制限や、「季語」を入れたり、「切れ字」を用いるというような約束があるのだが、「城崎」をうたうと、それらの約束がいつの間にか満たされてよい句になるのである。これも一四〇〇年も息づいてきた城崎温泉の効用の一つでもあるのだろう。先ずは温泉につかり、身も心もとぎほぐしてうたうという原点が、ここ城崎温泉にはある。
今回は、俳句が七〇三名の一二六七句集まった。城崎温泉に来られて、身も心もとき放たれた時、いつの間にか世界で一番短い五七五の「俳句」になったのであろう。とても良い句が多くあって嬉しい悲鳴をあげたことである。
兵庫県豊岡市 松井 万作
兵庫県篠山市 新家 保子
京都府京田辺市 甲斐往還子
愛知県名古屋市 鈴木 良雄
大阪府堺市 角野 京子
順位 | 作品 | 県・市 | 氏名 |
7 | 湯煙に包まれし母蟹(かに)菩薩(ぼさつ) | 兵庫県伊丹市 | 藤岡成子 |
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8 | 句(く)敵(がたき)もゐて廻(まは)し呑(の)む甲羅(かふら)酒(ざけ) | 愛知県豊田市 | 加藤洋子 |
9 | その中の鋏の動く蟹を買ふ | 大阪府大阪市 | 大鹿和子 |
10 | よろけつつ歩む日(にち)にち桜咲く | 京都府京丹後市 | 小石原百合子 |
11 | 御所の湯の格子越しなる雪景色 | 兵庫県宝塚市 | 中西久美子 |
12 | 掃き納(おさ)む僧に且(か)つ散る紅葉(もみじ)かな | 兵庫県神戸市 | 矢田部風来 |
13 | 残照(ざんしょう)の寺ふところに冬(ふゆ)紅葉(もみじ) | 兵庫県神戸市 | 矢田部恭子 |
14 | 雑炊に蟹味噌の香を添へにけり | 兵庫県神戸市 | 池田勝彦 |
15 | 甲冑(かっちゅう)に修羅のあとある紅葉宿 | 東京都世田谷区 | 関戸信治 |
16 | 淡雪のすぐ消されゆく大谿川 | 兵庫県神戸市 | 品川富美子 |
17 | 温泉でかにの気分で泡(あわ)をふく | 兵庫県加西市 | 栗山加奈子 |
18 | 初恋や麦藁(むぎわら)細工(ざいく)の指輪して | 兵庫県豊岡市 | 福伊英子 |
19 | 雪の夜の道行く人の声響(ひび)く | 京都府京丹後市 | 安田智耶子 |
20 | 温泉の湯の輪に遊ぶ木(こ)の葉(は)かな | 京都府京丹後市 | 山下逸子 |
21 | 湯けむりに六(ろっ)花(か)降り咲き年は行く | 京都府京田辺市 | 大和田尚子 |
22 | 名月を両手に掬う露天風呂 | 香川県三豊市 | 池口淳子 |
23 | 色鯉の浮き立つ河畔湯(かはん)の香 | 兵庫県豊岡市 | 藤田幸美 |
24 | 乳呑み子の語り顔なる桜かな | 大阪府大阪市 | 大鹿正男 |
25 | 連れ立ちて七湯めぐりや命延ぶ | 静岡県藤枝市 | 古屋美智子 |
26 | 露天風呂雪だるままで汗かいて | 大阪府枚方市 | 都美妃 |
27 | 城崎の街モノクロに雪の降る | 京都府京丹後市 | 芝井芙美子 |
28 | 浴衣(ゆかた)の裾(すそ)少し短かく湯めぐりす | 愛知県豊田市 | 朝倉良美 |
29 | 月に吐(は)く心に届くコウノトリ | 山口県周南市 | 森元輝彦 |
30 | 沈黙の波長の揃(そろ)う蟹(かに)の膳 | 兵庫県豊岡市 | 北村英樹 |
31 | ひき売の嫗(おうな)の笑顔青やなぎ | 埼玉県富士見市 | 大曽根育代 |
32 | 古里は城崎(ここ)に決めたと妻微笑(びしょう) | 兵庫県尼崎市 | 玉木雄三 |
33 | 初雪を湯煙り越しに眺めおり | 大阪府岸和田市 | 藤田慶子 |
34 | おみやげの麦藁細工(むぎわらざいく)秋あかね | 兵庫県篠山市 | 鷲尾瑞子 |
35 | 秋風や外湯めぐりの友ができ | 大阪府東大阪市 | 山下美千代 | 36 | 夫(つま)逝きて城崎の月残りけり | 宮城県仙台市 | 小林邦子 |
37 | 湯をめぐる芽柳頬をなでもして | 大阪府大阪市 | 片峯渓舟 |
38 | 首竦(すく)め雪の巣塔のこうのとり | 兵庫県豊岡市 | 川口眞生 |
39 | 一気(いっき)焼(や)き露天のお湯が肌に浸(し)む | 大阪府箕面市 | 樋口一郎 |
40 | みぞれ降り雨やどりする文芸館 | 兵庫県神戸市 | 寺下厚二 |
41 | あったまる湯のなかの足紅葉(もみじ)かな | 兵庫県川西市 | 大上早百合 |
42 | 麦わらや湯の香移りて艶(つや)めきぬ | 奈良県香芝市 | 中嶋國博 |
43 | 雪(ゆき)起(おこ)し小走りに行く下駄の音 | 兵庫県豊岡市 | 小島雅子 |
44 | 花(はな)筏(いかだ)くぐりくぐりて鯉のかげ | 兵庫県豊岡市 | 山田たき子 |
45 | 深雪寺(みゆきでら)めぐり城崎どまりかな | 大阪府大阪市 | 渡辺喜代子 |
46 | ぷりっぷり口の中でも泳ぐカニ | 大阪府大阪市 | 日野江美 |
47 | 足湯にて見知らぬ同士におなじ笑み | 兵庫県加古川市 | 八尾美奈子 |
48 | 温泉に入れてあげたい雪だるま | 大阪府東大阪市 | 笠松かよこ |
49 | 君と居る冬の城崎ふるさとになる | 京都府京都市 | 福井鞠奈 |
50 | 桜満開青春切符で城崎へ | 京都府京都市 | 小谷知里 |
51 | 旅装解く窓いっぱいの紅葉かな | 東京都府中市 | 水野浩子 |
52 | 積雪(せきせつ)に湯元いよよと湯気(ゆげ)太し | 京都府京都市 | 古川しま子 |
53 | 湯気たちて声々はずむかにの膳 | 大阪府大阪市 | 岡持慶子 |
54 | 城崎の湯疲れがまた心地よし | 広島県広島市 | 長尾澄子 |
55 | 御所の湯で金魚に見えるもみじかな | 大阪府大阪市 | 川合由朗 |
56 | 色変えぬ松に鸛(こう)鶴(づる)来て止まれ | 岐阜県関市 | 竹原のぼる |
57 | 紅葉の日ざしが尾根を駆け下りる | 兵庫県豊岡市 | 中奥スミ |
58 | 初(はつ)旅(たび)は「城の崎にて」を友として | 埼玉県加須市 | 鈴木貫一 |
59 | 軽やかに刻むリズムや宿の下駄 | 兵庫県伊丹市 | 田丸利江 |
60 | 歳末のせわしさ遠し風呂の旅 | 兵庫県宝塚市 | 土屋久美子 |
61 | 仲秋の月と一緒に露天風呂 | 埼玉県草加市 | 水原徹 |
62 | 城崎の湯ノ香恥かし酔芙蓉 | 滋賀県大津市 | 木村史子 |
63 | 湯あがりにはしゃぐ娘の藍浴衣 | 京都府京都市 | 椛島妙順 |
64 | われも着たし派手な浴衣に蝶の帯 | 兵庫県明石市 | 長田昌子 |
65 | 城崎で仲取り戻すカニの味 | 京都府木津川市 | 才治民子 |
66 | たゆたゆと乳房(ちぶさ)の揺(ゆ)れし柚(ゆず)湯(ゆ)かな | 奈良県大和郡山市 | 富野昌美 |
67 | 新婚の思い出浮かべ月湯舟 | 兵庫県たつの市 | 藤井昭雄 |
68 | 日常のせかるる思い下駄に消え | 大阪府阪南市 | 奥村幸子 |
69 | 月おもて外湯めぐりに笑ってる | 兵庫県姫路市 | 多田槇代 |
70 | 宿(やど)下駄(げた)のきれいに並ぶ冬の月 | 神奈川県横浜市 | 栗林明弘 |
71 | 三度きたも一度来いと湯が招く | 愛知県みよし市 | 原田里秋 |
72 | 着ぶくれて土産(みやげ)のカニ籠老夫婦(ろうふうふ) | 兵庫県香美町 | 小川泰枝 |
73 | 露天風呂しばしの間一人じめ | 京都府与謝野町 | 日置和子 |
74 | 湯の中でウーハーアーと演歌(えんか)節(ぶし) | 大阪府堺市 | 尾形幸子 |
75 | 城崎の足湯で語らう五人かな | 京都府京都市 | 田和昌洋 |
76 | 一杯の湯の香を飲みてあたたかし | 長崎県佐世保市 | 髙永久子 |
77 | 雪景色橋(はし)往(ゆ)く人の役者ぶり | 兵庫県神戸市 | 山本肇 |
78 | 雪だるま微笑む顔は我が息子 | 奈良県田原本町 | 西本昌起 |
79 | 心まで裸(はだか)にさせる城崎の湯 | 兵庫県川西市 | 原田優希 |
80 | 秋旅の車窓過ぎしはこうのとり | 京都府京都市 | 松村貴美子 |
81 | 湯めぐりでふれあう肩に雪が舞う | 兵庫県西宮市 | 小巻伸一 |
82 | 古き宿おばあのようなあたたかさ | 大阪府大阪市 | 小栗健太 |
83 | 雨の中湯めぐり笑顔傘ひとつ | 兵庫県西宮市 | 田村由起 |
84 | 温泉(ゆ)の客をどつと吐き出す雪の駅 | 兵庫県丹波市 | 須原逸子 |
85 | 城崎の一夜限りの宿浴衣 | 千葉県松戸市 | 渡辺克己 |
86 | 湯けむりに誘われ浴衣着スロウな街 | 滋賀県甲賀市 | 吉川春菜 |
87 | 夕風や七温泉(ななゆ)巡りの下駄かるき | 兵庫県豊岡市 | 大月千鶴子 |
88 | ぼんやりと足湯するなかほととぎす | 兵庫県豊岡市 | 西垣修美 |
89 | 迎えられまた見送られ蟹(かに)の爪(つめ) | 大阪府大阪市 | 徳久富美 |
90 | いづくから音をたてつつ雪解川(ゆきげがわ) | 京都府京丹後市 | 給田淳子 |
91 | カラコロと雪なき冬の城崎(きのさき)路(じ) | 京都府京都市 | 大蔵康浩 |
92 | 遠きにて湯のかおりかぐ冬の山 | 沖縄県豊見城市 | 安谷屋政美 |
93 | すずむしの唱に負けじと下駄の声 | 香川県高松市 | 進藤貴裕 |
94 | コウノトリはじらいみせて雪がくれ | 兵庫県加古川市 | 大西昌子 |
95 | 下駄(げた)の音(ね)が響いてなびく柳かな | 滋賀県草津市 | 橋本典明 |
96 | 湯けむりの先に見えるはえびす顔 | 兵庫県神戸市 | 若松司 |
97 | きのさきのななつの「おゆ」をせいはした | 京都府京田辺市 | 山内うらら |
98 | あつい湯にとろける気持ちで入ってく | 東京都江戸川区 | 平賀輝 |
99 | かわらけや投げれは丹後雪景色 | 大阪府大阪市 | 奥畑しげみ |
100 | 雪明かり亀甲模様狂いなし | 茨城県牛久市 | 清水良子 |