城崎短歌・城崎俳句コンクール入選発表 選者:安森 敏隆

第九回 城崎俳句コンクール入選作品

選者講評

「城崎百人一句」も第九回目をむかえた。俳句は五七五の「額縁」を作り、世界をその中に瞬時にしてとらえてうたう時によい句ができる。城崎温泉に来られて、身も心もとき放たれた時いつの間にか生まれてくるのであろう。

九十八歳の林日圓さんの悠揚たる俳句を最優秀賞に選ばせていただいた。林さんは、この「城崎百人一句」の常連でもある。四歳のお子さんの句から、九十八歳までの句を見せていただいて、幅広く俳句が愛好されてうたわれていることを思ったことである。世界に向かっても、三十余カ国で俳句ブームが起こっているということである。

この度は、俳句が一〇六四名の一七五一句集まった。とても良い句が多くあって嬉しい悲鳴をあげたことである。

今回は最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百句を選んで表彰し、「城崎百人一句」として冊子にして記念した。


最優秀賞
    温泉をめぐり来て城崎の余花に逢ふ
    京都府舞鶴市 林 日圓

    初句、二句と「句またがり」の俳句であるが、「余花に逢ふ」の「余花」がまことによく効いている。「余花」とは春におくれて咲く遅咲きの桜。


    優秀賞
    • 平伏ひれふすも眼球直立松葉蟹

      京都府京丹後市 前田冨美枝

      松葉蟹を称して「眼球直立」とは、よくぞ言ったものである。あの松葉蟹のいかめしく愛嬌のある貌(かお)が、彷彿とする。

    • 湯の町の柳しだるる太鼓橋

      兵庫県豊岡市 松井万作

      湯の町・城崎をみごとに「柳」と「太鼓橋」でうたっている。わかりやすく、単純で一気に読みこんだのが良い。


    • 胡坐あぐら組み睨みをきかす膳の蟹

      兵庫県豊岡市 矢部照夫

      「蟹」の方が「人」(客人)を見下ろして「膳」の上に威張って鎮座しているのである。「睨みをきかす」がとてもよい。

    • 大皿をい出す勢い松葉蟹

      京都府京丹後市 旭 武

      城崎は、なんといっても「松葉蟹」である。「大皿」を越えて今にも這い出してきそうな勢いのよいのが一番のご馳走である。

    • 旅の湯に首までつかるうば桜

      兵庫県三木市 三村田鶴子

      「うば桜」とは、「姥桜」とも書き、葉に先立って花を開く桜のことである。「ヒガンザクラ」ともいい、年増の美しさの形用にもなっている。


    佳作・入選
      作品 県・市 氏名
    7 浴衣娘(ゆかため)の番傘さして柳腰(やなぎこし) 大阪府豊能町 近藤正躬
    8 食べ出せば 寡黙(かもく)に蟹の大広間 兵庫県神戸市 音羽和俊
    9 雪に来て雪より白し鸛 京都府京田辺市 甲斐往還子
    10 蟹売りの日がな一日風の音 滋賀県栗東市 葛城巖
    11 逆光(ぎやくこう)の嶺(みね)温泉を抱(いだ)きおり 兵庫県豊岡市 中奥すみ
    12 雪の宿(やど) 我ら閉じこめ久遠(とわ)となれ 東京都新宿区 髙瀬逸穂
    13 酔ふほどに静かなふたりしずり雪 岡山県岡山市 信安淳子
    14 被災地に強く生きろとコウノトリ 大阪府枚方市 矢野親子
    15 笑い合い傘触れ合って春(はる)の雪(ゆき) 兵庫県豊岡市 北村英樹
    16 ほほえみの梅の香誘う湯も誘う 兵庫県尼崎市 辻三栄子
    17 惜しげなく足をさらして湯の柳 福岡県みやま市 野田岳比古
    18 初句会(はつくかい)出鼻くじかる雪の舞う 京都府京丹後市 安田智耶子
    19 蟹漁(かにりよう)やど太(ぶと)い声を投げ合って 京都府京丹後市 中川加代女
    20 温泉に映る満月(まんげつ)手ですくい 埼玉県川越市 内田幸太
    21 湯の町の空うるほひて柳の芽 京都府京丹後市 水野紀子
    22 声高(こえだか)に七湯(ななとう)巡りや風花(かざはな)す 兵庫県豊岡市 安田尤之
    23 旅初めまず城崎の蟹求む 兵庫県加古川市 川渕サチ子
    24 コウノトリ一字賜る吾(あ)が俳号 千葉県船橋市 根本鴻童
    25 並ぶ辰(たつ)麦わら細工の年(とし)の市(いち) 兵庫県豊岡市 家城典子
    26 手を引いて八十路(やそじ)の母と温泉寺 京都府長岡京市 坂田功一
    27 鴻の湯や授りし娘(こ)の嫁ぐ春 奈良県香芝市 中嶋國博
    28 今生(こんじよう)の淨土の湯宿(ゆやど)蟹の膳 兵庫県たつの市 藤井昭雄
    29 城の崎で鋏(はさみ)の動く蟹を買ふ 大阪府大阪市 大鹿和子
    30 降る雪にネオンが滲(にじ)む外湯かな 兵庫県豊岡市 山田たき子
    31 秋の陽を浴びて色付く湯治客 兵庫県神戸市 山本肇
    32 今宵こそ招ひてみやう雪女(ゆきをんな) 奈良県大和郡山市 富野昌美
    33 脚捥(あしも)げし蟹に売り子の胴間声(どうまごえ) 大阪府堺市 岡田恒教
    34 杉箸(すぎばし)に浚(さら)ふ蟹味噌甲羅酒 大阪府堺市 岡田祐二
    35 文学碑めぐる湯の町七変化(ひちへんげ) 滋賀県大津市 炭﨑博
    36 温泉と但馬訛(たじまなまり)の温かき 京都府京丹後市 芝井芙美子
    37 機嫌よき人ばかりなり下駄の音 滋賀県大津市 清水徹
    38 川の辺(べ)の柳も渡る太鼓橋 新潟県新潟市 佐藤憲
    39 雪祓(はら)う夫の背中暖かき 京都府京都市 和田淑子
    40 浴衣着てはしやぐ幼(おさな)をぶら下げて 千葉県船橋市 中原弘
    41 湯けむりや気兼ね知らずの柳湯(やなぎのゆ) 京都府京丹後市 岡野清子
    42 歳暮蟹家に大鍋なかりけり 岐阜県岐阜市 佐藤をさむ
    43 青やなぎ一期一会(いちごいちえ)の足湯かな 京都府京丹後市 冨貴高司
    44 認痴防止麦ワラ細工特効薬 京都府木津川市 横山琴音
    45 熱燗(あつかん)を酌めば余生の火も灯る 群馬県藤岡市 千島宏明
    46 被災地に温もり運べこうのとり 兵庫県加西市 栗山実千代
    47 蟹の泡海の名残を呟(つぶ)やけり 滋賀県大津市 志田宏子
    48 春風が浴衣の裾を乱しけり 兵庫県芦屋市 加島清子
    49 薄氷(うすらい)に餌(えさ)を啄(ついば)む鸛 兵庫県三田市 中山勢都子
    50 初螢(はつほたる)柳の枝に涼(りょう)をとり 千葉県茂原市 平野良信
    51 七十路(ななそじ)や孫にひかれて城崎に 東京都江東区 佐藤元子
    52 湯あがりの浴衣に温泉(ゆ)の香をつつみ 広島県広島市 古本宣子
    53 湯上りの下駄までハモる若夫婦 東京都八王子市 長谷川昭次郎
    54 湯めぐりにほどよき風の柳かな 長崎県佐世保市 髙永久子
    55 待ち合わせ柳の木だけがしっている 京都府与謝野町 日置和子
    56 蟹喰(かにく)ひにみなうち揃(そろ)ひ来たりけり 兵庫県明石市 池田德子
    57 湯の街をめぐりめぐりて月しずく 奈良県香芝市 杉本艸舟
    58 雪中(ゆきなか)の葱(ねぎ)に生吹(いぶ)きをもらひけり 京都府京丹後市 山下逸子
    59 腰高に異国の人の宿浴衣 静岡県掛川市 高渕秀嘉
    60 車窓より紅葉(もみじ)追ひ追ひ一人旅(ひとりたび) 大阪府大阪市 岡持慶子
    61 雪柳雫の輝き虹いろに 京都府京丹後市 吉岡佐佳枝
    62 城崎の足湯でほんのり紅葉かな 兵庫県尼崎市 芦澤重收
    63 時雨(しぐ)るるや足湯に浸(ひたる)る外国人 京都府京丹後市 給田淳子
    64 七つ湯に胸開けたる浴衣かな 滋賀県大津市 志田裕哉
    65 ただいまか行ってきますか下駄の音 京都府京都市 佐藤友恵
    66 露天風呂ぬっとまみえし柿たわわ 兵庫県豊岡市 西垣修美
    67 城崎や月そのままに幾十年 滋賀県大津市 高橋進
    68 嫁ぎ来し麦わら細工の小箱かな 兵庫県朝来市 谷井恭仁子
    69 履き慣れぬ下駄で寄り添う藍浴衣 京都府京都市 吉田良
    70 城崎や芽柳起こす下駄の音 京都府京都市 守山千史
    71 たくさんの下駄が奏でる音の街 大阪府豊中市 尾﨑悠加
    72 松葉ガニ老舗のメインを陣どりぬ 京都府京都市 坂本静子
    73 湯めぐりで病のつらさかなたへと 兵庫県猪名川町 藤田佳代子
    74 荒くれの双掌(もろて)ごつっと初湯(はつゆ)かな 兵庫県豊岡市 藤田幸美
    75 朧月(おぼろづき)一つ残りし外湯あり 兵庫県太子町 合田弘子
    76 湯のむこう聞こえてうれし母の声 兵庫県姫路市 斎藤和美
    77 雪の宿幼(おさな)説き伏せ女(おんな)の湯 兵庫県豊岡市 大月千鶴子
    78 夜桜や寡黙(かもく)の夫の感嘆符(かんたんふ) 京都府京丹後市 前川真子
    79 寄り添ひて冬田に見ゆるコウノトリ 京都府京都市 藪田洋子
    80 雪の野にとけこむ色のコウノトリ 兵庫県相生市 宮崎詩織
    81 月光を盥に汲むやひとりの湯 広島県三原市 末国正志
    82 湯火照(ゆほて)りの素肌に馴染む藍浴衣(あいゆかた) 大阪府堺市 岡田加枝子
    83 去年(こぞ)今年(ことし)なき湯の町の蟹売女(かにうりめ) 兵庫県宝塚市 広田祝世
    84 露天風呂雪だるまと混浴す 大阪府大阪市 桑原直人
    85 宿下駄(やどげた)をひびかせ柳(やなぎ)芽吹きけり 福島県須賀川市 金子健太郎
    86 湯気の中あいさつしあふ初湯かな 兵庫県明石市 石橋清美
    87 御所の湯の湯気に見違ふ冬の滝 大阪府茨木市 久保由美子
    88 湯けむりときそい合うかやぼたん雪 大阪府池田市 岡田梯一
    89 ようきたねわれに我にと下駄(げた)が呼ぶ 大阪府四条畷市 清水春奈
    90 雪たちも寒くてお湯にまっしぐら 兵庫県神戸市 田村涼葉
    91 艶(あで)やかな浴衣の裾はスニーカー 大阪府大阪市 内田志津子
    92 雪しんしんどっぷり酒と湯につかる 兵庫県篠山市 新家保子
    93 足湯での人のふれ合いあたたかい 兵庫県豊岡市 大田樹里
    94 射的場子供とあそぶ湯の帰り 兵庫県神戸市 髙橋大輔
    95 下駄はいてそぞろ歩きの河童かな 兵庫県明石市 多賀康人
    96 湯の町や川端沿ひに残る雪 兵庫県明石市 木下資一
    97 おんせんは心のきずもいやすんだ 大阪府池田市 まつもとなおき
    98 短(みじか)めの浴衣の君に歩(ほ)を合わす 茨城県牛久市 中野笙子
    99 湯の中にほんのり浮かんだ月の影 山口県防府市 善本智有
    100 どっぷりと湯に酔い心地柳美人(りゅうびじん) 兵庫県伊丹市 田丸利江
↑ページの上へ