「城崎百人一首」も今年で十七回目を迎えた。最初は同志社女子大学との産学連携の下で始められたのだが、間もなく「短歌」の募集が独立した。檜づくりの素晴らしい「投書箱」も町の何か所かに用意されている。一三〇〇年余の伝統ある五七五七七の「短歌」は、いかなる時も生き続けてきたのである。短歌のテーマの根源は「いのち」(命)をうたうことである。城崎にはその「いのち」の根源がいっぱいある。下駄を響かせて歩いていると、どこからか「いのち」の声が聞こえてくる。それを五七五七七のリズムに入れてうたえばよいのである。
この度は、短歌二九二人の五〇一首集まった。小学生、中学生から九十代の方々の投稿があり嬉しいことであった。
今回は最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百首を選んで表彰し、「城崎百人一首」として冊子にして記念した。
浴衣を着た城崎観光大使の美女の一人が城崎の町を観光案内しているのであろうか。二句目の「お国訛」がとてもよく効いている。
兵庫県新温泉町 安田多加子
太鼓橋のところの「鯉」をみごとに活写している。結句の「散る花びらを音立てて吸う」がとてもリアルで迫力がある。
兵庫県豊岡市 畑中照久
城崎の七つの外湯はそれぞれ特徴がある。中でも柳湯の深くてあったかい外湯は気持ちがいい。「木造り外湯」の「木」の温もりが伝わってくるようである。
兵庫県川西市 佐保田全弘
「出会いから五十年」とは、目出度く金婚式をむかえられたのであろう。奥様と外湯を訪ねて歩いておられる姿が目に見えるようである。
兵庫県芦屋市 加島清子
外湯の一番は橋の袂の「地蔵湯」と決められて廻られているのであろう。地蔵の心に出会ったような一首になった。
大阪府大阪市 連雀あきこ
初句の「まだまだに」の使い方がユニークである。「名残の雪」と「城崎の湯」と「温かきかな」がみごとにマッチしている
作品 | 県・市 | 氏名 | |
佳作 | 洗いひ髪ゆると結びて外国の浴衣の女はスニーカー履く | 兵庫県豊岡市 | 髙岡千春 |
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佳作 | 大谿の川面に遊ぶ花筏離れて寄りて大海へゆく | 兵庫県豊岡市 | 森田洋 |
佳作 | 城崎の災禍に逢ひし町並みにクレーン高く春の風吹く | 兵庫県豊岡市 | 椿野美代子 |
佳作 | こうのとりの絵柄の礼状はやばやと届く城崎のクラス会終え | 兵庫県養父市 | 西村弘子 |
佳作 | 湯上りのほゝ染めて立つ女の居て仐にやさしく降るなごり | 兵庫県豊岡市 | 柴田初子 |
佳作 | 父の病不治とわかれば城崎の蟹と出湯に連れ来しものを | 兵庫県篠山市 | 安原正久 |
佳作 | 湯の神に感謝の念い捧げつつ子ら計画の金婚祝う | 京都府京丹後市 | 木下正己 |
佳作 | 小五郎も直哉も歩きしこの道を夫を急かして朝一の湯 | 大阪府寝屋川市 | 山上恵子 |
佳作 | 城崎の外湯巡れば柳さらさらダンテに似たる人に会いたり | 兵庫県香美町 | 滝本正直 |
佳作 | 城崎の足湯に浸れば晶子の碑心の曇り晴れてスッキリ | 兵庫県豊岡市 | 城嶽竹弘 |
佳作 | 紅紅葉の山を映せる円山川こうのとり飛ぶ但馬の空に | 兵庫県豊岡市 | 松井いつ子 |
佳作 | 亡き夫の友と行き過ぐ半世紀麦わら文箱今も大事に | 兵庫県篠山市 | 新家保子 |
佳作 | 城崎に志賀を訪ねて来てみれば志賀セミになりわれを迎えり | 宮城県大崎市 | 阿部澄江 |
佳作 | 名も高き作家の原稿数多ありコウノトリなるレプリカ嬉し | 京都府宮津市 | 細見愼二 |
佳作 | 城崎の駅のホームに並び来る人の湯の香に風が吹きたり | 兵庫県新温泉町 | 仲問静枝 |
佳作 | 春の日に麦わら細工の麗わしさ匠の心いざ受け継がん | 兵庫県姫路市 | 山口文代 |
佳作 | 城崎の遅き外湯に身をゆだね眼閉づればすだく虫の音 | 兵庫県豊岡市 | 谷口夋一 |
佳作 | 硝子戸のポスター『ようきんさった』ほっこり歩く湯の里通り | 京都府京都市 | 林久美子 |
佳作 | 城崎の足湯マップを手に入れてめぐる順番夫と楽しむ | 兵庫県川西市 | 佐保田明子 |
佳作 | 親友と浸り語らう温泉のお湯に忘るるあつき思い出 | 大阪府箕面市 | 西村萌 |
佳作 | 甦る自然と共に鸛羽ばたいてゆく日本の空へ | 福井県越前市 | 馬場春之 |
佳作 | 木戸公の隠れ湯となる城崎で維新は意外と近くありにき | 山口県周南市 | 森元輝彦 |
佳作 | 城崎の街をあるけばサプライズコウノトリ一羽屋根にたたずむ | 京都府京都市 | 小坂純一郎 |
佳作 | さらけだす体と心城崎でかの文人に思いはせつつ | 埼玉県蓮田市 | 豊田美紀 |
佳作 | 浴衣着て川添歩く下駄の音湯の香ただよう城崎の町 | 兵庫県豊岡市 | 城嶽ちか子 |
佳作 | 城崎の文芸館の道教へ割引券を差し出す店主 | 京都府福知山市 | 堀蒼浪 |
佳作 | 糸柳芽ぶきの春を待ち侘びる遠隔の地に友は長病む | 兵庫県丹波市 | 黒田貴美子 |
佳作 | カラコロと下駄音響かせ湯めぐりす城崎の地はだれにもやさし | 栃木県真岡市 | 下和田真知子 |
佳作 | 月はまだひかりとならず露天風呂湯浴む衣解く母の仕草に | 兵庫県高砂市 | 池田喜代持 |
佳作 | 母親の日和山にての思い出は茹でたカニより紅の頬かな | 大阪府堺市 | 宮木俊也 |
佳作 | シカゴよりひ孫生まれしメール来しお礼に行きます地蔵湯柳湯 | 滋賀県大津市 | 上野房子 |
佳作 | きのさきの麦わら細工あざやかに匠の技に古しのぶ | 大阪府能勢町 | 中川玉江 |
佳作 | 友と三たり城崎の町歩むとき藤村・直哉の足音に逢ふ | 京都府京丹後市 | 岩井すみ子 |
佳作 | 地震に揺れし但馬城崎温泉の先人の労苦実れる見たり | 東京都足立区 | 佐藤春夫 |
佳作 | 湯の街の出湯の香りに頬染めし若き旅人通り過ぎゆく | 兵庫県猪名川町 | 南里夏雄 |
佳作 | はなやぎし声聞こえ来る川ぞいは卆業旅行の若人の群れ | 兵庫県豊岡市 | 徳網朝子 |
佳作 | 湯けむりの窓越しに見る行灯の淡き灯に新緑の羊歯 | 兵庫県豊岡市 | 山田まゆみ |
佳作 | 丈足りぬ浴衣姿の外人さん満足そうに笑顔で歩く | 兵庫県西宮市 | 小谷安一 |
佳作 | 両の手に溢るる程の庭の柚子捥ぎて今宵は温泉気取り | 京都府京丹後市 | 髙山千素 |
佳作 | 睦月の夜温泉に溶け込む結晶にスマホ世代も思わず見上ぐ | 兵庫県太子町 | 冨士原文沙 |
佳作 | 下駄の音でリズムが変わるこの街で普段詠まない短歌詠んでる | 岡山県岡山市 | 白神佑一 |
佳作 | 子は巣立ち老いてならじと一人旅初日の宿は雪の城崎 | 静岡県藤枝市 | 磯部敏晴 |
佳作 | 三歳経て吾子伴いて城崎路そぞろ歩きの下駄音高き | 東京都江戸川区 | 舟山美里 |
佳作 | 城崎のそぞろ歩きは夫婦道元気で再来願う道なり | 熊本県合志市 | 今坂育雄 |
入選 | ほの暗きあぜみちに二羽のコウノトリ羽ばたきすれば初日のびくる | 京都府舞鶴市 | 新谷洋子 |
入選 | 思い出を追うて城崎ひとり旅楽しく語る亡き人々と | 兵庫県加古川市 | 渡瀨静子 |
入選 | 集いたる傘寿の会は湯の宿に苦楽こもごも会話つきざり | 京都府京都市 | 大林ヒデ子 |
入選 | 来る年のわが子の無事を祈りつつ風に向いてかわらを投ぐる | 京都府京都市 | 清水寿美子 |
入選 | コウノトリ円山川につがい居て我と夫の手本となれり | 北海道札幌市 | 半田はるみ |
入選 | 十億円宝くじ売るCMあり柳並木で百円拾う | 兵庫県豊岡市 | 四澄朗 |
入選 | 久々にゆかた姿で街歩くカランコロンと音ひびかせて | 埼玉県さいたま市 | 安藤恭枝 |
入選 | にしきごい柳並木の湯めぐり人ふと足とめる秋雨の中 | 兵庫県猪名川町 | 南里千鶴 |
入選 | また来よう約束交わせし姉は逝き湯気のむこうに姿ゆらげる | 兵庫県宝塚市 | 藤田千里 |
入選 | 思い立ちきたる城崎初時雨あいあい傘にて蟹を買いたり | 兵庫県尼崎市 | 松田照子 |
入選 | 眼下には色づく山川湯の城之崎優しき言葉聞くロープウェイ | 大阪府大阪市 | 中西栄 |
入選 | 飲みながらカニ食い肉食いアワビ食い母子にんまり城崎の夜 | 愛媛県東温市 | 大西智子 |
入選 | いにしえの民のつくりし麦わらを愛でる我が娘のいとおしきかな | 愛媛県東温市 | 大西恵子 |
入選 | 今日の美しい夜のひとときは湯気も漂い笑みもただよう | 兵庫県豊岡市 | 田邊裕美 |
入選 | 菖蒲湯に浸り癒され城崎の外湯巡りて時を忘るる | 京都府京都市 | 小谷一弘 |
入選 | 一〇〇人の表彰式は誇らしく城崎の町に人生刻む | 京都府京都市 | 林基義 |
入選 | 静かなる湯山の神に祈りけり美しき山永くあれかし | 兵庫県加古川市 | 前川桂恵三 |
入選 | 城崎の薄くれないの花のごと匂う湯あみの髪の艶めき | 大阪府摂津市 | 藤澤麻紘 |
入選 | 巣立つ子に思い届けよコウノトリ大空続けども遠き雪国 | 青森県平川市 | 阿保詩子 |
入選 | 文芸館二人で作るわら細工器用不器用それも思い出 | 大阪府大阪市 | 中島瞳 |
入選 | あわただしい日々を忘れて一人旅城崎の湯に足どり軽く | 京都府南丹市 | 山田祥生 |
入選 | 散り散りに道行く友と最期の湯白い景色に消えゆく背中 | 三重県津市 | 竹尾優里 |
入選 | 桜散り青葉が見える城崎に燕が巣作る足湯めぐりて | 和歌山県和歌山市 | 池上ちあき |
入選 | 天気予報大阪は ふる里も豊岡地方も今日はとぞ | 大阪府寝屋川市 | 北川養子 |
入選 | 湯の花の豊かに浮ける白猿の湯がとうろりと心身つつむ | 山口県下関市 | 中西聖子 |
入選 | 雨音と湯けむり香る一の湯の茜に染まる足とわがほほ | 兵庫県姫路市 | 酒井翔大 |
入選 | 城崎で女性十人ランチ食べ日頃の垢を取りたい熟女 | 京都府京丹後市 | 山口美惠子 |
入選 | ふたたびの城崎めぐり長旅は疲れも忘れし泉水のみ干す | 千葉県船橋市 | 塩川加世子 |
入選 | いつもとは違う姿の君を見て浴衣もいいぞ照れくさくなる | 山口県下関市 | 村上那奈 |
入選 | 日々のこと忘れてみたい城崎で天下の名湯に時をすごしぬ | 三重県桑名市 | 橳島顕三 |
入選 | のぼる湯気負けじとばかり舞う雪と行き交う男女と肩で混じりぬ | 三重県松阪市 | 小濱秀斗 |
入選 | 城の崎のお湯に浸ってぽかぽかと湯冷め知らずの家族旅かな | 兵庫県明石市 | 岩﨑真千子 |
入選 | 四十路にて初蟹御膳食べにけり直哉を知りて心はばたく | 大阪府大阪市 | 吉岡玲子 |
入選 | 旅重ねひとり見上ぐる鴻の湯の湯けむりのなか星のまたたく | 山梨県甲府市 | 佐野一彦 |
入選 | 若き日の思い出の地城崎に息子を連れて何度も戻る | 大阪府摂津市 | 小野亜紀 |
入選 | 熱い湯に体も心もなじませて体をふきふくカニタオルかな | 兵庫県神戸市 | 中内達也 |
入選 | 文豪のいのちのいずみ褪せもせず直哉のともせし未来を照らす | 兵庫県美方郡新温泉町 | 仲問一成 |
入選 | 城崎の足湯から見る絹の裾その頂にふれる紅雪 | 愛媛県松山市 | 前川哲人 |
入選 | せせらぎに柳揺らめく夕闇を湯の里めぐる下駄が賑わす | 愛知県名古屋市 | 長谷川啓史 |
入選 | 文芸の香り豊かな城崎の町を歩みて心安らぐ | 滋賀県大津市 | 上野啓三 |
入選 | やわらかに柳青めく城崎の川辺歩めり雨もまた良し | 兵庫県西宮市 | 土肥康嗣 |
入選 | 初めての城崎に来て幼い日なぜかなつかしく思い出さるる | 三重県四日市市 | 中川絵美子 |
入選 | 足湯にて浴衣美人と居合わせて混浴したねと妻に耳うち | 千葉県船橋市 | 塩川正二 |
入選 | 一の湯二の湯三の湯と父と渡りし懐し下駄の音 | 兵庫県西宮市 | 秋本園子 |
入選 | 鈴虫にコオロギトンボコウノトリ命あふれる城崎の街 | 滋賀県彦根市 | 村田祐実 |
入選 | ぶらり旅いで湯の里に友がらと心もほどけて笑いあいけり | 大阪府大阪狭山市 | 山口寛子 |
入選 | 雪道をあなたと共に歩く道険しさののちにあるあたたかさ | 愛媛県松山市 | 森永真理英 |
入選 | 湯巡りの下駄の温みを足裏にからりからりと城崎の町 | 山口県周南市 | 森元英子 |
入選 | 故郷出て頼る者なきこの場所でばあちゃん家に似たたびさきの宿に出会いぬ | 兵庫県神戸市 | 丸屋杏子 |
入選 | 風雪の重みに耐えて新芽ふくしだれ柳に深みを覚ゆ | 大阪府大阪市 | 江文雄 |
特別賞 | A THOUSAND PETALS DRIFT IN KINOSAKI AIR SNOWFALL IN SPRINGTIME |
香港 | JAMES W HEDGES |
特別賞 | Walking with sore feet- How do I keep on going?- Satonoyu Bath |
カナダ | SHANNON MACNARGHTON |