「城崎短歌コンクール」も、今年で第十五回を迎えた。志賀直哉が城崎に来て一〇〇年を迎えた。直哉は城崎の街や山を歩いていろいろなものを見て小説にした。蜂や、鼠や、イモリの生と死の姿にも触れている。城崎には、温泉の他にもさまざまな見ものがある。その一つにもなってきた千鳥橋には、毎年の皆さんの優秀な短歌と俳句が橋の四つの隅に書き込まれて名所の一つにもなっている。親子連れで城崎を訪れた歌、女子会の歌、学生同士で訪れて楽しくうたった歌、コウノトリやカニや月に寄せ、城崎を街の闊歩し、七湯を尽くしてうたった短歌が多くあった。
この度は、短歌二九四人の五二八首集まった。小学校から八十代の方々の投稿があり嬉しいことであった。
今回は最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百首を選んで表彰し、「城崎百人首」として冊子にして記念した。
城崎温泉「夫」の予後の療養も兼ねてこられたであろう。男湯に入っている夫を気づかいながら、夫を思う優しいまなざしがとてもすばらしい。
京都府京丹後市 木村嘉宏
「背」と「肩」に、「妻 」と「母」の荷物を持たれて温泉を回っておられる姿が髣髴する。この優しい思いやりがひしひしと伝わってくるところがよい。
兵庫県芦屋市 加島清子
「ようきんさった」という、城崎なまりの女将の言葉がよく生かされている。「地蔵湯」も今いる位置を語っていてリアリティがある。
兵庫県新温泉町 仲問靜枝
志賀直哉が城崎に療養に来て一〇〇年になった。昨年はいろんなイベントが持たれて賑わった。結句の「直哉は強し」がとてもよく効いている。
大阪府寝屋川市 山上恵子
城崎温泉駅にしつらえられた「足湯」は、旅人にとって慰安の場所として親しまれている。「ちぢに」は「千千」「数千」とも書き、とても多いことを言う。
兵庫県豊岡市 谷口夋一
城崎温泉の外湯を詠んだものである。元旦に降ってきた「雪」が何もかも祝福してくれているようである。
作品 | 県・市 | 氏名 | |
佳作 | 椿の木つぼみを秘めしの中ゴールの春をめざして堪える | 兵庫県豊岡市 | 椿野美代子 |
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佳作 | 元旦にみ~んな無口でかぶりつくセコ蟹六匹家族六人 | 兵庫県豊岡市 | 四澄朗 |
佳作 | 風寒く衿掻き合はす城崎の道にひびける蟹を売るこゑ | 兵庫県新温泉町 | 安田多加子 |
佳作 | 城崎の外湯に入りてほのぼのと今在るわれの幸せを思う | 兵庫県神戸市 | 水田明 |
佳作 | 温泉をこよなく愛せし義母が逝く九十四歳の夏の初めに | 兵庫県豊岡市 | 山田まゆみ |
佳作 | 萌え出づる柳をうつして大谿川は外湯めぐりの下駄の音止める | 京都府京丹後市 | 岩井すみ子 |
佳作 | レトロなる容器に魅せられ玄武洞おかき買いたり城崎の午後 | 京都府京丹後市 | 谷口利枝 |
佳作 | 露天湯に手ぶり交えて会話する異国の女と一時楽し | 兵庫県川西市 | 佐保田明子 |
佳作 | 円山川流れは今も滔々と城崎駅には鉄幹のうた | 京都府京都市 | 堀実子 |
佳作 | 湯の街に駒下駄鳴らし城崎に今年も来たる津居山のカニ | 京都府宇治市 | 岸畑政武 |
佳作 | 湯上がりに木苺味のジェラートを隣で食べる友の頬紅 | 京都府京都市 | 松尾唯花 |
佳作 | はきなれぬ湯下駄にいどみ浴衣着て外人さんが喜々として行く | 兵庫県豊岡市 | 柴田初子 |
佳作 | 亡き母より二十も長く生きてきて今城崎の湯に浸りおり | 三重県四日市市 | 園田信子 |
佳作 | 下駄の音絶ゆること無き城崎の朝なさな聞くめざましのごと | 兵庫県豊岡市 | 髙岡千春 |
佳作 | 男湯もまた女湯も楽しみて吾子は二度目のさとの湯を出づ | 山梨県甲府市 | 佐野一彦 |
佳作 | 青龍の出でし水面を仰ぎ見る初冬の蒼空玄き岩肌 | 神奈川県横浜市 | 東根聡 |
佳作 | 母の日に子供らよりの贈り物夫と愉しむ城崎温泉 | 岡山県岡山市 | 豊岡美津子 |
佳作 | 旅人の心の癒しおもてなしここに幸あり城崎の町 | 京都府宇治市 | 田智子 |
佳作 | 山寺を発ちて辿った来日岳望む円山流れ穏やか | 兵庫県豊岡市 | 畑中照久 |
佳作 | 忘れ得ぬ祖父の記憶を手繰り寄せ気が付けばまた湯煙の街 | 兵庫県神戸市 | 松下直人 |
佳作 | 川端の柳並木は春が良し老師偲びて湯の街を訪う | 京都府京丹後市 | 前川真子 |
佳作 | 川添の柳涼しく歩く道觀光客のゆかたも涼し | 兵庫県豊岡市 | 城嶽ちか子 |
佳作 | 城崎に妻と初めて来てみたり御所の湯一の湯と外湯満喫 | 埼玉県志木市 | 柴崎正次 |
佳作 | 腹の子と歩く湯の街雨の道そろりそろりと下駄ひきずりて | 神奈川県横浜市 | 鈴木未知 |
佳作 | 「城崎温泉にようきんさった」と蟹は笑む柳芽吹きて浴衣に枝垂る | 東京都江戸川区 | 佐藤春夫 |
佳作 | 城崎を愛した祖母に思い馳せ法要帰りの外湯めぐりか | 兵庫県宝塚市 | 中山亜実 |
佳作 | 城崎の緑風散歩ほほなでてそっと手結び二人の歩き | 富山県高岡市 | 坂田陽子 |
佳作 | 城崎に来て読み返す志賀直哉いもりのすみ家探し求めん | 大阪府和泉市 | 三谷祥二郎 |
佳作 | 名残おし桜吹雪が水に落ち足湯につかり疲れ忘れる | 兵庫県猪名川町 | 仲ちず |
佳作 | 文芸館に城崎細工のハガキ求め教えられたる隧道歩く | 兵庫県朝来市 | 谷藤真佐恵 |
佳作 | 柳糸風に吹かれて右左それも人生これも人生 | 奈良県奈良市 | 野方美恵子 |
佳作 | 城崎にゆかりの文人訪ねきて往時をしのぶ小説・歌集 | 京都府京丹後市 | 田中郁代 |
佳作 | 小径辺の花も小き命あり妻のいちは我が命なり | 京都府木津川市 | 横山茂 |
佳作 | 大師山の如来薬師に抱かれて城崎に湧く霊湯とこしえ | 富山県富山市 | あべまさこ |
佳作 | 湯は優しもてなし優し城崎にきれいになったと見せ合う手と手 | 千葉県千葉市 | 村田美樹子 |
佳作 | 城崎の湯を巡りつつ文人の足跡巡る雪は舞い散る | 大阪府松原市 | 田路哲治 |
佳作 | 城崎の王橋近き一の湯の朝のしじまに湯の香ただよふ | 新潟県魚沼市 | 坂西直弘 |
佳作 | これまでの思い出のごとく淡雪がひとつひとつと湯に吸われゆく | 宮城県仙台市 | 柳井和則 |
佳作 | 何時来ても心癒さる城崎は笑顔はじける外湯巡りよ | 兵庫県姫路市 | 松本典子 |
佳作 | 温泉の客の賑はひ遠ざかり温泉寺の花の静かさ | 兵庫県明石市 | 池田徳子 |
佳作 | 城崎を訪ねたるのは春の日で風靡豊かな柳の木立ち | 兵庫県市川町 | 藤本肇 |
佳作 | 城崎の歌人の香り漂えば柳も招く石碑のこころ | 兵庫県新温泉町 | 仲問一成 |
佳作 | 城崎の暮れなずむ空灯り出すあかりと夜風に揺れる柳よ | 大阪府大阪市 | 駒谷遥也 |
佳作 | 湯上りにひとりながめる城崎の灯よ演歌の女になり切ってみる | 兵庫県豊岡市 | 徳網朝子 |
入選 | 伴奏は青柳の風湯めぐりの下駄のデュエット城崎の街 | 東京都足立区 | 鷺沼あかね |
入選 | 地蔵湯の紅さすお顔の石仏にひたすら願う孫の安産 | 滋賀県大津市 | 上野房子 |
入選 | 山の端に靄立ち上がり谷間の村靜もれる丹後篠山 | 大阪府大阪市 | 家治綾子 |
入選 | かはたれになりゆく湯の町カッコンコカッコンコロロ下駄のおしやべり | 大阪府豊中市 | 杉野裕子 |
入選 | 初めての城崎の湯にほほ赤く染める息子と牛乳を飲む | 大阪府泉大津市 | 澤井愛美 |
入選 | 蟹喰ふは面倒なると言ふ夫が好むズワイの太き足の身 | 兵庫県西宮市 | 澤瀉和子 |
入選 | 祖父と来し城崎の冬思い出し息子と歩む湯の里通り | 兵庫県加古川市 | 前川桂恵三 |
入選 | あぢさゐの花浴衣着てめぐる路地小さき橋に柳のなびく | 山口県防府市 | 羽仁和子 |
入選 | 古来より聖地と名だたるいでゆの里外湯めぐりに命洗わる | 大阪府大阪市 | 辻江文雄 |
入選 | つれ添いし夫に感謝夫婦旅柳そよぐよ外湯巡りの | 千葉県松戸市 | 牧野玲子 |
入選 | 志賀さんが宿った部屋に足を入れにわか文豪大雪と成る | 兵庫県宝塚市 | 杉浦誠 |
入選 | ロープウェイ開けた窓に入る緑風と遠い谷のホトトギスの声 | 東京都世田谷区 | 田崎秀信 |
入選 | 湯煙に柳芽吹いてゆれ動き城崎の夜に女子会の声 | 愛知県名古屋市 | 園部志津代 |
入選 | 下駄の音子どもの声と響き合う幸せの音聞こゆ城崎 | 大阪府大阪市 | 清水孝弘 |
入選 | 円山の川の瀬音を聞きながら酒酌み交わす城崎の夜 | 兵庫県神戸市 | 谷松友幸 |
入選 | 雪煙る但馬の海の遠鳴りに詩人の眼のコウノトリ翔ぶ | 山口県周南市 | 森元英子 |
入選 | 城崎の湯をたずねて静かなる文芸の館にふと書きつづる | 広島県広島市 | 小田和美 |
入選 | 夏祭り夜空にうかぶ夜の花星に負けない輝き放つ | 大阪府泉佐野市 | 脇本美樹 |
入選 | 初めての妻との旅行城崎で子との旅行も城崎にせん | 大阪府泉大津市 | 澤井裕樹 |
入選 | 懐かしき友と連れだち外湯巡り湯けむりの中に話題尽きず | 大阪府池田市 | 山本一巴 |
入選 | 城崎の七湯めぐりてなつかしく昭和レトロに下駄の音軽く | 埼玉県久喜市 | 金子雄司 |
入選 | 秋の夜の白紙に書く養父、八鹿子の住む街に続く駅の名 | 兵庫県市川町 | 青田綾子 |
入選 | もめたすえ一致団結城崎へ暑さ吹き飛ぶ熱き心よ | 大阪府松原市 | 山崎理香子 |
入選 | 父と来し雪の崎崎歩み遅し湯に浸せるはかじかみし手よ | 大阪府池田市 | 鈴木陽子 |
入選 | 梅雨深し円山川の濁れるはかなしき我の旅のこころか | 大阪府高槻市 | 宮本正章 |
入選 | 湯の町を歩く姿は雨の中かさはじく露もまた風情かな | 兵庫県神戸市 | 山川達郎 |
入選 | 湯けむりに逝きし義父をしのびつつともに五十路の夫婦旅 | 大阪府枚方市 | 柿木千代子 |
入選 | 札幌を遠く離れて一五〇〇キロ今城崎の道に立ちたり | 北海道室蘭市 | 半田喬久 |
入選 | 湯気煙る川沿ひの道に下駄の音「城の崎にて」の直哉まぼろし | 山口県周南市 | 森元輝彦 |
入選 | 青柳踊りの衣裳に色添えて城崎まつりの夜は更けゆく | 兵庫県丹波市 | 黒田貴美子 |
入選 | 城崎へ同窓会の八人づれほつほつ湯気に会話の弾む | 京都府舞鶴市 | 新谷洋子 |
入選 | 大谿の川の流れのごときかな我が妻と行く夫婦の旅路 | 大阪府大阪市 | 畦地恒弘 |
入選 | 城崎の円山川面の朝露にかしわ手打ちて健やか祈る | 兵庫県高砂市 | 三嶋勝徳 |
入選 | みやげ店の麦わら細工みて歩く明るき宵の頬の照りかな | 兵庫県丹波市 | 中下重美 |
入選 | 葉の舟はさくらもみじや欅の葉円山川を日本海行き | 京都府京都市 | 坂本静子 |
入選 | 久方に訪れし宿松葉蟹ふと甲に映る亡き祖父の笑み | 大阪府豊中市 | 出口大地 |
入選 | 文豪を訪ねて冬の城崎へ春まだ遠し日本海カニ | 東京都小金井市 | 伊藤しおり |
入選 | 姉と娘と城崎温泉外めぐり話がはずむすず虫のみち | 広島県広島市 | 高亀美子 |
入選 | 小雨ふる城崎の午後はしとやかに時の流れもいつしか忘る | 奈良県御所市 | 稲垣裕子 |
入選 | 城崎を訪ね来たりて奇しきかな宿の傍えの晶子の歌碑よ | 大分県大分市 | 阿南睦美 |
入選 | 松葉蟹住み馴れし海あとにして目指すは何処南への旅 | 兵庫県豊岡市 | 城嶽竹弘 |
入選 | ぼんぼりの赤黄を散らす川流れ結婚前の城之崎の町 | 大阪府箕面市 | 加藤千尋 |
入選 | はじめて読んだ志賀直哉今生きている有難さをしみじみと知る | 兵庫県神戸市 | 三田雄策 |
入選 | 露天風呂もみじの隙の月明かり八十の体を露わにてらす | 大阪府和泉市 | 三谷昌代 |
入選 | 露天風呂男三人岩に立ち雪を見つめて仁王立ちする | 大阪府寝屋川市 | 矢野健太郎 |
入選 | 麦わらを手にとりつくるたけとんぼ大空高くとんでゆけゆけ | 兵庫県猪名川町 | 仲郁乃璃 |
入選 | からころと慣れぬ浴衣に身を包みほうっとほてる湯屋の町かな | 大阪府大阪市 | 前枝はるか |
入選 | しんしんとふる雪のなか歩いてく心やすらぐ七つの外湯 | 滋賀県大津市 | 安井洋介 |
入選 | いにしえの城崎の湯に魅せられて訪ねし今を至福と思う | 広島県福山市 | 渡辺喜美子 |
入選 | 文人の生き様思ひて佇めば大谿川に春雨の降る | 神奈川県横浜市 | 坪沼稔 |