「城崎百人一句」も今年で十四回目をむかえた。俳句は五七五と短い形式であるが、大きく世界を一言で捉えることができるすばらしい形式でもある。
文学や俳句は、先ずは「現実」に足を置いてうたうのであるが、その底にある「本質」や、その先にある「幻想」や「理想」をしっかり透視してうたう所に特徴があり、それつかまえて歌い込まれなければ良い〈句〉にはならない。
この度は、幼稚園、小学生の句が多くあって嬉しいことであった。
今回は、俳句が三七五名の七一○句集まった。とても良い句が多くあって嬉しいことであった。最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百句を選んで表彰し、「城崎百人一句」として冊子にして記念した。
蟹の甲羅を「砦」に譬えたのがよく効いている。比喩を使う時、現実の蟹以上に「蟹」の様相をとらえ、生き生きとうたい表現することが大切である。
大阪府高槻市 渡口忠幸
今年のエトの「酉の絵馬」に幼児が鳥の絵をえがいたのである。初句の「初詣」も目出度くて良い。
兵庫県豊岡市 藤田幸美
初句の「がっきと」が深海のカニをみごとにとらえて歌っている。「騒(ぞめ)き」は、動詞の「「ぞめく」の名詞化であろう。「さわぎ」とか「騒乱」の意である。
大阪府枚方市 高木美智子
城崎の町も時雨れて来ていっせいに宿の名の入った「番傘」が開いたのである。「異国の人も」の「も」が効いて華やいでいる。
兵庫県加古川市 高橋宣子
結句の「買ひ惑ふ」に、買おうか買うまいかと惑っている作者の瞬時の心の揺らめきがよく出ていて面白い。
京都府京丹後市 中川加代女
横目でよぎるのが作者であるのか松葉蟹であるのかが少し解りにくいので、「貧(ひん)の身の」の「の」は、「や」の切れ字を使ってみてもよい。
作品 | 県・市 | 氏名 | |
佳作 | 初風呂(はつぶろ)やお国なまりの貸衣裳(かしいしょう) | 兵庫県豊岡市 | 松井睦子 |
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佳作 | 桜花弁(おうかべん)浮かべて白き谿(たに)の川 | 兵庫県豊岡市 | 畑中照久 |
佳作 | 雪女(ゆきおんな)七湯巡りを抜けて来し | 兵庫県豊岡市 | 大月千鶴子 |
佳作 | 蟹売女リヤカー軽く帰りけり | 兵庫県神戸市 | 岸野孝彦 |
佳作 | 小春日や薬師(やくし)の恵(めぐ)み湧く出(い)で湯(ゆ) | 福井県越前市 | 馬場春之 |
佳作 | 城崎や北斗に輝く七ツの湯 | 山梨県北杜市 | 石原富義 |
佳作 | 神さぶる冬(ふゆ)三日月の玄武洞 | 兵庫県豊岡市 | 森田洋 |
佳作 | 門構え流石(さすが)御所の湯蓮(はす)も咲き | 大阪府大阪市 | 児玉恭教 |
佳作 | 城崎の柳のすき間に月を見る | 愛知県西春日井郡 | 坪井高誌 |
佳作 | 御所の湯や天窓に揺る青紅葉 | 京都府京都市 | 三原寿典 |
佳作 | 湯の街の射的場明かし宿浴衣 | 京都府長岡京市 | 谷口良江 |
佳作 | 城崎の湯めぐり果てて寒満月 | 兵庫県三木市 | 矢野夏子 |
佳作 | 城崎の膳を賑(にぎ)はす松葉蟹 | 大阪府枚方市 | 高木司郎 |
佳作 | 目くばせし売場陣(うりばじん)どる松葉蟹 | 兵庫県豊岡市 | 安田尤之 |
佳作 | 城崎に来てよ外湯(そとゆ)の空(そら)を見に | 兵庫県豊岡市 | 畑中和子 |
佳作 | 湯盥(たらい)に木の葉小舟の漂へり | 兵庫県西宮市 | 赤塚昌弘 |
佳作 | 城崎に温もり運ぶこうのとり | 兵庫県神戸市 | 大澤聡 |
佳作 | 木屋町の川面に浮かぶ花筏(はないかだ) | 兵庫県豊岡市 | 原田政代 |
佳作 | 湯けむりのなか亡(な)き父(ちち)とすれ違う | 東京都杉並区 | 三浦源樹 |
佳作 | 城崎はみんながなかよくなれる街 | 京都府宇治市 | 加藤詩葉 |
佳作 | 露天湯に雁首並べ日脚伸ぶ | 兵庫県神戸市 | 高橋洋一郎 |
佳作 | 夕立の前を走るや下駄男 | 滋賀県栗東市 | 葛城巖 |
佳作 | 湯めぐりややんはり訛耳朶(なまりじだ)に春 | 京都府長岡京市 | 加藤久子 |
佳作 | 松葉蟹日本海の泡吹けり | 京都府福知山市 | 堀蒼浪 |
佳作 | 湯けむりの中に出でたる月の声 | 兵庫県加古川市 | 増田仁史 |
佳作 | 青空に映える若葉や薬師堂 | 福岡県福岡市 | 大城行廣 |
佳作 | 藤村も浸かりしお湯や春浅し | 滋賀県大津市 | 鈴木直人 |
佳作 | 襟足(えりあし)の後れ毛匂う宿浴衣(たびゆかた) | 兵庫県朝来市 | 能勢水絵 |
佳作 | 城崎や滝の水背に朝つかる | 大阪府堺市 | 森健一 |
佳作 | 温泉や雪と競いて城崎へ | 京都府京都市 | 坂本静子 |
佳作 | 湯煙を覗き込みたる春の雪 | 兵庫県明石市 | 小田虎賢 |
佳作 | 湯上がりの素足にそっと春の風 | 三重県名張市 | 髙西宏 |
佳作 | 外湯かな冬の夕暮だんだんに | 福島県福島市 | 伊藤陽子 |
佳作 | 未来へと飛び立っていくコウノトリ | 兵庫県姫路市 | 森口修司 |
佳作 | 滝の音を背(せな)で聴きつつカニ歩き | 岡山県津山市 | 山本健寛 |
佳作 | 城崎の秋空穿(うが)つコウノトリ | 大阪府大阪市 | 上田涼貴 |
佳作 | お堀端柳のそよぐ夢の中 | 鳥取県米子市 | 西村京子 |
佳作 | 鴻の湯や妻の長湯にひまつぶし | 兵庫県豊岡市 | 大廣義信 |
佳作 | 一億人やっと出会えたあなただよ♡ | 兵庫県神戸市 | 山田夕貴 |
佳作 | 美しい緑(みどり)の山に風がふく | 大阪府大阪市 | 永田愛和 |
佳作 | 吸い物の具(ぐ)をみてはせる竹野浜(たけのはま) | 兵庫県姫路市 | 土田拓実 |
佳作 | 夕(ゆう)やけにてらされ飛ぶや赤とんぼ | 奈良県桜井市 | 萩原侑花 |
佳作 | 城崎や憂さをも吸いこむ町あかり | 兵庫県加東市 | 中瀬美稀 |
佳作 | 名月や一緒に入(はい)る露天風呂 | 兵庫県豊岡市 | 松井いつ子 |
入選 | ライオンの口より秋の出湯かな | 兵庫県尼崎市 | 大沼敏幸 |
入選 | 花冷えに寄り添う影や木屋町小路 | 兵庫県豊岡市 | 小野笑魚 |
入選 | 城崎に親孝行の蟹うまし | 富山県高岡市 | 岡野満 |
入選 | ドボーンと入ればすっとぬけてゆく | 岐阜県不破郡 | 髙木哲子 |
入選 | まろうどの宿の城崎花篝(はなかがり) | 大阪府高槻市 | 渡口由美 |
入選 | 厳冬も乗り越えられる城崎や | 兵庫県姫路市 | 増冨龍一 |
入選 | 外国語飛び交う城崎さま変り | 京都府京都市 | 粟野三智子 |
入選 | 城崎や古希の祝の初温泉 | 新潟県新潟市 | 佐藤憲 |
入選 | 初茜(はつあかね)舞ひ降りて来し鸛(こふのとり) | 兵庫県たつの市 | 藤井昭雄 |
入選 | 睨めっこ器よりはみだす松葉蟹 | 兵庫県加古川市 | 川渕サチ子 |
入選 | 温泉や娘(むすめ)と話す彼のこと | 香川県仲多度郡 | 尾崎和代 |
入選 | 初詣で但馬五社(たじまごしゃ)に祈り集(つど)う | 兵庫県豊岡市 | 小幡晴男 |
入選 | 春の空チョロチョロチョロと足湯(あしゆ)あり | 和歌山県西牟婁郡 | 内川葉月 |
入選 | 山越えて北を見やるや日本海 | 鳥取県倉吉市 | 坂田摩帆 |
入選 | 城崎や出会って今年は二十年 | 山口県山口市 | 野島大介 |
入選 | 湯に入り心も体も温まる | 東京都三鷹市 | 久富涼 |
入選 | 下駄の音(ね)やより道たのし一人旅 | 青森県平川市 | 阿保詩子 |
入選 | 青き目の下駄音軽ろき浴衣(ゆかた)かな | 兵庫県川西市 | 佐保田明子 |
入選 | 露天風呂千年前(せんねんまえ)を思いつつ | 大阪府岸和田市 | 和田鏡太郎 |
入選 | 御所の湯の女(め)のみな肌の美しき | 兵庫県明石市 | 池田德子 |
入選 | 紅葉の湯外国の人と会話する | 千葉県佐倉市 | 永尾仁 |
入選 | 湯めぐりに城の崎の知恵街づくり | 千葉県佐倉市 | 永尾博子 |
入選 | 秋の夜の宴うつつに夢語る | 兵庫県三田市 | 小林航太郎 |
入選 | 城崎や蟹にウインクして宿へ | 兵庫県加古川市 | 渡瀨靜子 |
入選 | 雪とけて歩く足もとかろやかに | 奈良県橿原市 | 佐井由美 |
入選 | 冬の町静けさのなか足湯かな | 大阪府大阪市 | 須田莉凪 |
入選 | 城崎に寒もどる宿海かおる | 滋賀県近江八幡市 | 三田和子 |
入選 | 饒舌や寡黙に囲むカニの鍋 | 兵庫県神戸市 | 山中拓也 |
入選 | 湯の町に夢千代思ふ白き息 | 栃木県那須塩原市 | 垣内孝雄 |
入選 | ブルートレイン停まる温泉(ゆ)の町冬の宿 | 兵庫県豊岡市 | 西垣修美 |
入選 | 城崎やカランコロンと何処(どこ)までも | 兵庫県豊岡市 | 家城典子 |
入選 | 春を待つ心を包む月あかり | 兵庫県伊丹市 | 大橋ふみ子 |
入選 | 潮の香や風抱くやうに浴衣着る | 兵庫県神戸市 | 馬野将幸 |
入選 | 城崎や昭和の残る宿の雪 | 兵庫県神戸市 | 音羽和俊 |
入選 | 湯のまちで路地をもとめてほたる川 | 兵庫県神戸市 | 古舘嘉一 |
入選 | 城崎や文豪ゆかりの冬至風呂 | 群馬県藤岡市 | 千島宏明 |
入選 | 円山の川面に散り咲く春の雪 | 兵庫県神戸市 | 有本五郎 |
入選 | ねころびて秋空(あきぞら)ながむ夫婦旅(ふうふたび) | 兵庫県神戸市 | 岡島貞雄 |
入選 | The tiny drop ripples Happiness a plentiful. | MALAYSIA | KeithKhoo |
入選 | 愛妻と外湯巡りの時雨傘 | 大阪府門真市 | 藤田信義 |
入選 | コウノトリ旅の疲れを癒すかな | 神奈川県横浜市 | 中島和司 |
入選 | 秋の朝日の出とともに温泉へ | 兵庫県丹波市 | 岡田智里 |
入選 | 湯を交え改めて知る友の良さ | 兵庫県宝塚市 | 浪切確一朗 |
入選 | 城崎の湯に沈み込み秋の虹 | 兵庫県明石市 | 小田慶喜 |
入選 | 春寒し文芸館の手湯足湯 | 兵庫県加古川市 | 明定豊子 |
入選 | 「待て」「待て」と夜桜道(よざくらみち)を子等と湯へ | 東京都江戸川区 | 舟山美里 |
入選 | おかわりの茶碗がならぶ蟹雑炊(かにぞうすい) | 兵庫県加西市 | 栗山実千代 |
入選 | 宿の膳でんと真(ま)ん中(なか)松葉蟹 | 東京都新宿区 | 栗山加奈子 |
入選 | 城崎や袂(たもと)にふれし湯のかおり | 兵庫県神戸市 | 正井喜久美 |
入選 | 足湯して『城崎裁判』読む冬陽 | 京都府京都市 | 宇野木めぐみ |