「城崎百人一首」も今年で十六回目を迎えた。第一回目から今回までとおして連続して入選されている方もいる。一三〇〇年余の伝統のある五七五七七の「短歌」は、いかなる時も生き続けてきたのである。不易流行というけれども「不易」なる永遠のものと「流行」なる先端のものを合わせもって今日まで来たのである。テーマは「いのち」(命)である。年初には、城崎において火事もあって尊い命も失われた。早速に、城崎に駆け付けたいとうたってこられた人もあり、ありがたいことであった。これからも変わらず続けていきたいと思っているので、城崎に来られて「いのち」を鎮魂し、「いのち」を満喫し、「いのち」を養って豊かに生きていただきたい。
この度は、短歌三三六人の六二六首集まった。小学生から九十代の方々の投稿があり嬉しいことであった。
今回は最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百首を選んで表彰し、「城崎百人一首」として冊子にして記念した。
「歌」は「訴え」であり「祈り」である。下の句の「ゆだねるしかなく祈るしかなく」とたたみかけるように息子の無事の命を訴えたところに、深みがでている。
京都府京都市 森ひろし
「いさをし」とは「功」と書き、武勲、手柄のことである。ここにうたわれた「志士」は城崎にしばし潜んで命をたくわえていた桂小五郎のことである。
京都府京丹後市 田﨑千草
城崎の「ことば」はやわらかく、「湯」とともに旅人の心を和ませてくれる。ゆったりとしたアクセントに隠された暖かさがそうさせてくれるのである。
兵庫県豊岡市 柴田初子
「車椅子」を囲んで温泉街を楽しそうに満喫して歩いている家族の姿が目に浮かぶ。この和やかな情景をみごとに形象化している。
兵庫県明石市 池田徳子
今年に入って城崎の街で不幸な火事が起こった。その報道写真をいち早く見つけて駆けつけて励ましたいとの想いが一首の中にあふれている。
大阪府大阪市 江文雄
「コウノトリ」が今日も城崎の空を舞っている。これも「汚染なき田」のおかげであろう。「農夫の慈悲」とは、よくぞ言った。
作品 | 県・市 | 氏名 | |
佳作 | 大ぶりな明治の頃の雛飾り女将雛似の城崎の宿 | 千葉県千葉市 | 村田美樹子 |
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佳作 | 城崎の龍宮城より朝日がのぼり蟹売る声で一日のはじまり | 兵庫県豊岡市 | 徳網朝子 |
佳作 | 客人に一期一会の心がけ温泉宿は栄えゆくなり | 兵庫県豊岡市 | 椿野美代子 |
佳作 | 城崎の朝湯に通ふ駒下駄の音軽やかな春のあけぼの | 兵庫県新温泉町 | 安田多加子 |
佳作 | 杳き日のはらから集ひし城崎へ傘寿のふたりにあは雪宿る | 京都府京丹後市 | 岩井すみ子 |
佳作 | いで湯の香に浸れるごとく城崎の柳は橋のもとに揺れおり | 神奈川県横浜市 | 宮﨑哲生 |
佳作 | 喜びも苦しみも皆受け入れて牡丹ざくらの深き重なり | 兵庫県丹波市 | 黒田貴美子 |
佳作 | 元朝のまんだら湯にて「極楽」とつぶやく老いにわれもうなずく | 兵庫県豊岡市 | 谷口夋一 |
佳作 | カラコロと下駄音楽しみながら行く城崎温泉私生きてる | 京都府京丹後市 | 谷口利枝 |
佳作 | 古来まれとは言うものの無事生きて柳並木に秋茜舞う | 兵庫県豊岡市 | 四澄朗 |
佳作 | 覚えたてひらがな「き」のさき「く」と息子「く」より「ごくらく」湯にて教える | 兵庫県神戸市 | 佐藤智洋 |
佳作 | 暮れかかる宮の石段下駄の音足首細き目の青き男 | 大阪府堺市 | 正川延子 |
佳作 | 苔が葺く大谿川の老桜雪洞灯る木屋町通り | 兵庫県豊岡市 | 畑中照久 |
佳作 | 若き日の直哉に会ひに城崎へふたたび宿の傘さしてゆく | 神奈川県大和市 | 栗林智子 |
佳作 | 四季通し旅情あふれる城崎の七湯巡りて祝う妻古稀 | 京都府京丹後市 | 木下正己 |
佳作 | ほのかにもキンモクセイの香がありてまんだらの湯の深き湯つぼよ | 兵庫県香美町 | 滝本正直 |
佳作 | 蟹鍋の湯気に集いし同期会七十年を泣き笑いして | 兵庫県明石市 | 福本淳子 |
佳作 | 地蔵湯に老いて我が身を浸しつつ更なる意識を高めゆきたし | 兵庫県新温泉町 | 仲問静枝 |
佳作 | 麻痺のある夫をささへ川の辺をゆるゆると来て足湯に浸る | 愛知県蒲郡市 | 伊藤伸 |
佳作 | 小雪降る城崎の街暖かく人の心もおだやかなりし | 兵庫県豊岡市 | 城嶽ちか子 |
佳作 | 華やかなペアルックの新婚さんレンタサイクル城崎の春 | 兵庫県川西市 | 佐保田全弘 |
佳作 | 出発は十時と聞けば朝風呂にゆったりと入り城崎あとにす | 兵庫県養父市 | 西村弘子 |
佳作 | 木枯らしの吹ける但馬路城崎にカニスキツアーの車列なる | 兵庫県豊岡市 | 松井いつ子 |
佳作 | 下駄の音と浴衣でめぐる城崎に明日への力ふつふつと湧く | 京都府京丹後市 | 木村美枝 |
佳作 | はんてんの色は新緑春の風気に入るわれは肩で風切る | 滋賀県東近江市 | 岡本安男 |
佳作 | 夏は夜恋する蛍となりにけり地震越えて城崎温泉栗の花 | 東京都足立区 | 三角逸郎 |
佳作 | 印度より直哉に会いに来た人の浴衣の肩の線のやさしさ | 大阪府茨木市 | 増淵留美子 |
佳作 | 能舞台かがり火たかるる城崎の宿にいこえば春の雪降る | 京都府福知山市 | 大槻なをみ |
佳作 | 跳び跳ねて湯舟の中で幼子は春待つ心身体いっぱい | 大阪府寝屋川市 | 山上恵子 |
佳作 | 鯉みる―と川面のぞける幼児の頬くすぐりて柳ゆらめく | 兵庫県豊岡市 | 山田まゆみ |
佳作 | 春浅き湯の街ややもはなやぎて直哉住みにし宿を風訪ふ | 大阪府吹田市 | 川内通生 |
佳作 | 城崎の柳青めるせせらぎにイモリ供養の梅花藻流す | 徳島県徳島市 | 納 壽一郎 |
佳作 | 行商の一日終りて城崎の秋の夜長の湯にひたりけり | 京都府福知山市 | 堀蒼浪 |
佳作 | 足一本取れし蟹二匹安売りの声もかじかむ雪降り止まず | 兵庫県芦屋市 | 加島清子 |
佳作 | 求愛のダンスなせるかコウノトリ羽ばたくたびにしずくが光る | 京都府舞鶴市 | 新谷洋子 |
佳作 | 駒下駄の音聞きながら窓の外足湯の女性とふっと目の合う | 京都府京都市 | 林久美子 |
佳作 | 城崎で夫の転職お祝いに厄年すぎて夢の教師に | 兵庫県三田市 | 小野まどか |
佳作 | 胸の傷隠して入るまんだら湯命びろいの雪の城崎 | 滋賀県野洲市 | 三木正子 |
佳作 | 羽根とこま麦わら細工の短冊に寿と書き新居へ送る | 兵庫県朝来市 | 谷藤眞佐惠 |
佳作 | 城崎に新島襄を語り継ぐ安森氏との出会い華やぐ | 北海道札幌市 | 川口陽子 |
佳作 | リハビリに耐へて十二年杖と妻にささへられゆく城崎温泉 | 愛知県蒲郡市 | 伊藤治輝 |
佳作 | 鴻の湯に老いたる祖父を労われば背を流せる白寿の肌 | 兵庫県新温泉町 | 仲問一成 |
佳作 | 城崎の雪解の水は湯と馴染み早もしだるる柳のみどり | 兵庫県豊岡市 | 森田洋 |
佳作 | 城崎の駅に降り立つ旅人の心をいやす足湯のもてなし | 兵庫県神戸市 | 谷松友幸 |
入選 | 宙をとぶアンパンマンのごとくあれコウノトリよ列島越えて | 山口県周南市 | 森元英子 |
入選 | 鸛翼広げてジオパーク巡り巡りて来日の自然 | 兵庫県豊岡市 | 小幡晴男 |
入選 | マップ図の文学散歩の全コース歩き通してこころ充ちたり | 大阪府守口市 | 中山惟行 |
入選 | 城崎の文芸館の帰り道小枝に一輪弥生の桜 | 北海道札幌市 | 川口由季絵 |
入選 | 城の崎のいでゆの宿に足湯して街ゆき人とほゝ笑み交わす | 和歌山県田辺市 | 増井貞美 |
入選 | ほかほかとあたたか続く一の湯は幸せ続く夏の始まり | 大阪府岸和田市 | 後藤伊織 |
入選 | 日本人よ昔のごたごた終わりにし五体のんびり城崎の湯で | 兵庫県豊岡市 | 城嶽竹弘 |
入選 | そろそろとつま先触れる城崎の足湯に父の笑顔ほどけり | 大阪府豊能町 | 溝口うらら |
入選 | 大好きなあなたと来たから城崎が好き温泉卵のような温もり | 大阪府堺市 | 齋藤郁恵 |
入選 | 一人旅忘れるほどに城崎は常に隣で笑う人あり | 兵庫県川西市 | 木内美由紀 |
入選 | 湯の町に職在りし日を振り返る白魚の鍋できあがるまで | 島根県美郷町 | 芦矢敦子 |
入選 | 身をほぐす心をほぐす湯浴みしのち地ビール時々カニの煎餅 | 東京都足立区 | 鷺沼あかね |
入選 | 乙女らは外湯巡りに下駄履きの小走りにゆく風花の中 | 熊本県八代市 | 貝田ひでを |
入選 | 退職の記念にお湯につかり来て夫婦の絆さらに深めし | 岡山県岡山市 | 木下道也 |
入選 | さとの湯で入りましたよ朝風呂をきこえましたか鳥のさえずり | 兵庫県川西市 | 三宅真理子 |
入選 | 地の底のマグマの恵み湧き出ずる城崎の湯に命を洗う | 福井県越前市 | 馬場春之 |
入選 | 柳湯の恩恵念願第一子!「きもちいいネ」と腹に語る吾 | 兵庫県宝塚市 | 中山亜実 |
入選 | 妹を説き伏せ傘寿の記念にと来し城崎はくもりてしぐる | 大阪府寝屋川市 | 北川養子 |
入選 | 城崎の宿の七夕笹飾り子等の未来を短冊にたくす | 群馬県太田市 | 小笠原千恵子 |
入選 | 城崎で悩む己れと向かい合い湯より出づればぼたん雪ふる | 神奈川県横須賀市 | 牛膓直之 |
入選 | ゆかた着て外湯巡りの下駄の音人声に夏の鶯こたへけり | 岐阜県各務原市 | 村瀬幹枝 |
入選 | 円山川流れ但馬城崎温泉紅葉色水面の月と交わす盃 | 東京都足立区 | 佐藤春夫 |
入選 | 傘寿迎えたずね来たりし城の崎は旅の疲れをいやすもてなし | 東京都小平市 | 前田雅尚 |
入選 | ちちははの希な旅の湯たずねみる六十年の時を経つつも | 大阪府大阪市 | 塩崎知 |
入選 | 母娘旅麦わら細工の手作りハガキ未来の自分にメッセージ | 大阪府大阪市 | 飯田香代子 |
入選 | 御所の湯に異国の人ありさみしげに若者すぐに話しかけ居り | 岡山県倉敷市 | 大森勝彦 |
入選 | アイライクベリージャパンとシスコより湯巡りの彼と共湯するなり | 島根県美郷町 | 芦矢修司 |
入選 | やわらかき城崎の湯にいだかれてきのうのことが少しずつ消ゆ | 京都府京都市 | 林基義 |
入選 | 城崎の川面にうつる灯に優しき亡母の面影偲ぶ | 鹿児島県霧島市 | 今西泰子 |
入選 | ポチャと音立てながら足湯して柳も黄葉城崎の宿 | 京都府宮津市 | 細見愼二 |
入選 | 雨の音静まる街に家族連れ一瞬を楽しむ明日は仕事 | 大阪府大阪市 | 今井みゆき |
入選 | 大谿に沈む青月ゆらめいて伏目の我に秋を囁く | 神奈川県川崎市 | 大庭功睦 |
入選 | 八重桜湯の街ながめゆらりゆらホーホケキョーの声にあわせて | 京都府京都市 | 馬場精子 |
入選 | 城崎の外湯めぐりを堪能し母娘の頬は見事なカニ色 | 大阪府堺市 | 田中悠加 |
入選 | 湯けむりを運んでまどろむ春霞たまりし仕事しばし忘れむ | 香川県高松市 | 加藤智絵 |
入選 | しずしずと二人で歩く城崎の柳の露に肩は濡れつつ | 大阪府茨木市 | 小島千佳 |
入選 | 日常の疲れを癒し湯の旅へさあ明日からも母をがんばる | 岡山県倉敷市 | 川合静代 |
入選 | 娘より孫ができたと知らせあり夫と微笑む城崎の宿 | 岡山県岡山市 | 木下敬子 |
入選 | 朝の陽にきらめく髪と下駄の音カラコロさせて外湯に向う | 埼玉県川越市 | 染谷純子 |
入選 | 記念日の朝思い立ち城崎へ夕立のあとに妻と湯めぐり | 大阪府大阪市 | 八木俊憲 |
入選 | 城崎の温泉街に夜更けまでカラコロ下駄の音の往き交ふ | 愛知県名古屋市 | 三好ゆふ |
入選 | 今は亡き母の愛した水仙に「行ってきます」と声かける朝 | 山口県下関市 | 堀本幸成 |
入選 | 幼子は揃いの浴衣で手をつなぐ片手に輝く林檎飴大き | 山口県下関市 | 平田汐里 |
入選 | 城崎を気の先と詠むこの旅路あなたが私の気持ちの先に | 大阪府堺市 | 福島聡 |
入選 | リウマチの父に連れられ城崎へ二人で歩く雪の降る夜 | 兵庫県神戸市 | 黒川真一朗 |
入選 | 「こうのとり」入線間近のホームにてレールの弾み胸を躍らす | 京都府京丹後市 | 木村嘉宏 |
入選 | 城崎と眼下に眺む雪の中未来にむけて想いを寄せる | 大阪府豊中市 | 森脇弥寸子 |
入選 | わが町のホワイトアウトを忘れさす城崎の外湯を巡る幸せ | 北海道小樽市 | 髙木智宏 |
入選 | 文豪の歩みし道の水茎を我も辿りて偲ぶ城崎 | 東京都杉並区 | 荒木希美 |
入選 | いくたびか来てもあきぬ湯城崎の身も心ともほぐれゆくかな | 兵庫県西宮市 | 土肥康嗣 |