
「城崎百人一句」も第一〇回目をむかえた。志賀直哉が城崎を訪れ、「城崎にて」の構想を抱いて小説にしてから一〇〇年目に当たる記念の年でもある。城崎の町を歩いていると一人一人が直哉になり夢二になり晶子になれる。そんな俳句に、今回もいっぱいであえた。俳句は、世界で一番短い形式のひとつである。それでいて一番大きく世界をうたうこともできる素晴らしい韻律である。それでいて一番大きく世界をうたうこともできる素晴らしい韻律である。
この度は、俳句が八五三名の一六九〇句集まった。とても良い句が多くあって選考するのがとても楽しいことであった。
今回は最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百句を選んで表彰し、「城崎百人一句」として冊子にして記念した。

松葉蟹の特徴を「両眼を立てて」とみごとに描出している。そして松葉ガニを主役にして「糶」をしている人々を睥睨しているようにさえ見える。

兵庫県豊岡市 木之瀬貞一
コウノトリのゆっくり弧高を保って歩む姿が目に見えるようである「薄氷(うすらい)を踏みしめ歩む」が何とも良い。
滋賀県大津市 炭﨑 博
「子宝湯」と「鬼子母神」がみごとに組み合わされている。「花の鬼子母神」の「花」が一句を生かしている。
兵庫県神戸市 音羽和俊
「蟹の香」が廊下を歩いている時にふくいくと香って来たのである。「案内」を「あない」と読ませて妙。
兵庫県豊岡市 松井睦子
「飛花」も「落花」も飛び交う桜の花の様子を指す言葉である。この一句「浄土のなかの」とズバリ言ったところがよい。
兵庫伊丹市 入江宇多子
「月」をうたって何とも面白い句が出来た。踊り手たちの一人一人の「手」に月がさして輝いているのである。城崎音頭でも踊っているのであろう。
| 作品 | 県・市 | 氏名 | |
| 7 | 熱燗や蟹の甲羅をちと焦がし | 兵庫県神戸市 | 松下弘美 |
|---|---|---|---|
| 8 | トンネルを六つ抜けたり温泉の里へ | 兵庫県美方郡香美町 | 滝本正直 |
| 9 | 雪に味ありふるさとの雪うまし | 兵庫県豊岡市 | 松井万作 |
| 10 | ほどほどの長生きをして蟹の宿 | 兵庫県豊岡市 | 北村英樹 |
| 11 | 朝靄を衝いて一番外湯かな | 兵庫県豊岡市 | 矢部照夫 |
| 12 | 牡丹雪駅の貸傘桜色 | 兵庫県神戸市 | 池田勝彦 |
| 13 | 蟹歩きして積雪の太鼓橋 | 大阪府大阪市 | 渡辺喜代子 |
| 14 | 久闊の足湯に交し温め酒 | 兵庫県豊岡市 | 藤田幸美 |
| 15 | 蟹売女の耳朶にやさしき里言 | 兵庫県姫路市 | 松本典子 |
| 16 | どこまでも晴れ渡りけり冬の凪 | 兵庫県豊岡市 | 井上梨華 |
| 17 | 久闊を叙する吟行蟹一盞 | 岐阜県大垣市 | 杉本利明 |
| 18 | 単線の停車の長き雪の駅 | 兵庫県神戸市 | 米井睦 |
| 19 | 城崎の路地に雪積む文学碑 | 兵庫県神戸市 | 池田順子 |
| 20 | 腰ひねり雪に立ちおる柳かな | 兵庫県神戸市 | 樋口靖子 |
| 21 | 満月をしだれ柳が邪魔をする | 鳥取県鳥取市 | 小林勝年 |
| 22 | お土産は柳のお湯の一番札 | 京都府京都市 | 竹宮啓介 |
| 23 | 雪明り大谿川の装へり | 兵庫県豊岡市 | 小野とも子 |
| 24 | 凍て土へ凛と降り立つコウノトリ | 兵庫県川西市 | 佐保田明子 |
| 25 | 川の面に鯉と遊べる花筏 | 京都府京都市 | 松岡秀子 |
| 26 | 湯の町は墨絵となりし雪化粧 | 富山県高岡市 | 岡野満 |
| 27 | 六花舞う足湯に並ぶ膝小僧 | 兵庫県姫路市 | 松本弘一 |
| 28 | 雪見酒父兄夫も逝き給ふ | 兵庫県加古川市 | 渡瀬靜子 |
| 29 | 初詣麦わら細工の絵馬を吊る | 大阪府大阪市 | 村田照枝 |
| 30 | 川の面に柳うつして日本海 | 京都府京丹後市 | 岡田益美 |
| 31 | 雪霏々とまなかひの山失せにけり | 兵庫県神戸市 | 品川富美子 |
| 32 | 城崎の宿番傘に初時雨 | 兵庫県神戸市 | 岸下庄二 |
| 33 | 梅遅き城崎の湯のけぶりかな | 大阪府泉南郡熊取町 | 岡本遊凪 |
| 34 | 湯けむりと雨に洗わる柳かな | 京都府向日市 | 吉岡知美 |
| 35 | 橋二つ渡って雪の外湯かな | 愛知県みよし市 | 原田利秋 |
| 36 | 松葉蟹競る女声男声 | 京都府京丹後市 | 池田里野 |
| 37 | 城崎に古老の夫婦手をつなぐ | 兵庫県美方郡新温泉町 | 宮元豊子 |
| 38 | 店頭の蟹泡噴いて海恋へり | 兵庫県宝塚市 | 田口晶子 |
| 39 | 露天の湯浸かれば銀河あふれ出す | 東京都足立区 | 長峯雄平 |
| 40 | 下駄音も七湯めぐりを楽しめり | 滋賀県大津市 | 清水徹 |
| 41 | 湯めぐりや浴衣脱ぐたび舞ふ桜 | 兵庫県明石市 | 小田龍聖 |
| 42 | 街歩き浴衣の花が笑ってる | 大阪府東大阪市 | 山下美千代 |
| 43 | げたの音城崎じゅうにひびいてる | 兵庫県加西市 | 福井陽貴 |
| 44 | 城崎の山に張りつく峰の雪 | 兵庫県豊岡市 | 西坂公代 |
| 45 | 湯巡りのはずむ下駄音春隣 | 京都府京丹後市 | 芝井芙美子 |
| 46 | 松葉蟹這い出るままを糶り落す | 京都府京丹後市 | 中川加代女 |
| 47 | 松葉蟹無言で食す無礼講 | 兵庫県川西市 | 佐保田全弘 |
| 48 | 行きよりも帰りにそろう下駄の音 | 兵庫県芦屋市 | 竹林春奈 |
| 49 | 蟹供養碑に初物の蟹供ゆ | 兵庫県宝塚市 | 広田祝世 |
| 50 | 初雪を掬ひて妻は茶を点つる | 京都府木津川市 | 横山茂 |
| 51 | 蟹喰へば無口の夫のなお無口 | 兵庫県加古川市 | 川渕サチ子 |
| 52 | 雪の山交はす神代のものがたり | 兵庫県神戸市 | 山本肇 |
| 53 | 風花に我が意を得たり鸛 | 京都府京田辺市 | 甲斐往還子 |
| 54 | 下駄回遊夢見て次回十年後 | 東京都足立区 | 園田傑 |
| 55 | 一の湯を過ぎて浴衣の火照りけり | 佐賀県唐津市 | 古賀由美子 |
| 56 | 嘆き節出て本調子御雪宿 | 兵庫県明石市 | 﨑野としゑ |
| 57 | 囲い湯の濡れし裾端に笑顔咲く | 兵庫県三木市 | 鍋島健一 |
| 58 | 湯の町を春弾ませて下駄の音 | 新潟県新潟市 | 佐藤憲 |
| 59 | 湯めぐりの最後に締める内湯かな | 大阪府大東市 | 中原修 |
| 60 | 大皿や殿様気取りの松葉蟹 | 兵庫県豊岡市 | 家城典子 |
| 61 | 身を清めこころを清めてカニ喰らう | 兵庫県姫路市 | 早川雅人 |
| 62 | 湯の街に下駄ひびかせて若返る | 埼玉県さいたま市 | 佐藤勇治郎 |
| 63 | 初写眞蟹と一緒に撮りにけり | 岐阜県岐阜市 | 佐藤をさむ |
| 64 | 湯めぐりの下駄音せはし雪もよひ | 静岡県藤枝市 | 古屋一英 |
| 65 | 狛犬の雪帽子払ひお祷りす | 京都府京丹後市 | 吉岡佐佳枝 |
| 66 | コウノトリ吉報を待つ嫁御寮 | 千葉県船橋市 | 根本鴻童 |
| 67 | 柳下花びら集まる大谿川 | 兵庫県豊岡市 | 佐山直美 |
| 68 | 一人居てまた楽しかる湯のけむり | 兵庫県姫路市 | 斎藤和美 |
| 69 | 女神祀る社小さきや小鳥来る | 愛知県豊田市 | 加藤洋子 |
| 70 | 玻璃越しに雪をそびらの露天風呂 | 兵庫県神戸市 | 矢田部栄治 |
| 71 | 歓声の次に黙あり蟹の席 | 奈良県香芝市 | 中嶋國博 |
| 72 | 名月を湯舟に浮かべる露天風呂 | 大阪市阿倍野区 | 清原楊風 |
| 73 | 初雪をかぶりて地蔵の姿みゆ | 大阪府豊中市 | 末原紀美代 |
| 74 | 城崎の湯気を貫ぬく雪解川 | 大阪府堺市 | 市村健夫 |
| 75 | 湯めぐりの頬冷ましをり雪解風 | 大阪府堺市 | 市村明代 |
| 76 | ただいまと言へる湯町の宿浴衣 | 京都府京都市 | 丸井巴水 |
| 77 | 湯の町や静かに雪の降ることよ | 京都府京都市 | 籔田洋子 |
| 78 | 雨けぶる円山川に秋探し | 長崎県長崎市 | 鶴田正悟 |
| 79 | 城の崎の宿の背山の藤の花 | 兵庫県姫路市 | 進藤はな |
| 80 | 柳湯や我も夢二の女となりぬ | 兵庫県明石市 | 池田徳子 |
| 81 | こうのとり旅の小さな感嘆符 | 滋賀県栗東市 | 葛城巌 |
| 82 | 下駄の音遊ばせ外湯へおぼろ月 | 新潟県佐渡市 | 山田昭夫 |
| 83 | 糊浴衣硬さが嬉し出湯宿 | 群馬県藤岡市 | 千島宏明 |
| 84 | 宴席や大見得を切る松葉蟹 | 京都府京丹後市 | 安達富子 |
| 85 | 城崎の蟹を頬張る無位無官 | 東京都世田谷区 | 関戸信治 |
| 86 | 葉桜やまだ畳めない花筵 | 京都府長岡京市 | 後洋一 |
| 87 | 城崎は師走とは異なる時流れ | 大阪府大阪市 | 田中豊 |
| 88 | 満願の縁味わうかにの宿 | 奈良県天理市 | 藤本幸平 |
| 89 | 金婚の美酒を互に宿浴衣 | 東京都町田市 | 小野隆志 |
| 90 | 紅葉床鼓となりし下駄の音 | 大阪府茨木市 | 牧谷良太 |
| 91 | 味自慢赤い子を持つこっぺ蟹 | 京都府京丹後市 | 後藤一美 |
| 92 | 長閑なり足湯ではずむ国なまり | 愛媛県松山市 | 横田滋水 |
| 93 | 川柳ほてり解きたる風に待つ | 兵庫県揖保郡太子町 | 合田弘子 |
| 94 | 街の音呑みこんでゐる雪催 | 奈良県大和郡山市 | 富野昌美 |
| 95 | 雪催ひ麦わら細工見てる間に | 宮城県仙台市 | 松澤ふさ子 |
| 96 | 湯けむりをぬぐい紅さす初鏡 | 兵庫県揖保郡太子町 | 首藤修子 |
| 97 | ほうぼうの言葉とびかう温泉場 | 岡山県岡山市 | 中澤美香子 |
| 98 | 城の崎や湯巡り手形もバーコード | 北海道北広島市 | 小松仁美 |
| 99 | 川底の桜落葉の幾色に | 大阪府八尾市 | 吉原恵子 |
| 100 | 今日だけはちがうおふろでたのしいな | 兵庫県明石市 | 髙橋陽向 |