城崎短歌・城崎俳句コンクール入選発表 選者:安森 敏隆

第十三回 城崎短歌コンクール入選作品

選者講評

「城崎短歌コンクール」も、今年で第十三回を迎えた。俳句が世界を瞬時にしてとらえてうたうのに対して、短歌は「五七五」で提示した世界に「七七」の部分でさらに自分をうたいこむ。心を読み、自分を掘り下げる、といってもよい。この「自分」(私)をうたうところが短歌の特徴である。

この度は、コウノトリやカニや月に寄せて、東日本大震災を慰謝し励ます短歌が多くうたわれていた。福島にあろうが、東京にあろうが、京都や北海道や沖縄にいようが今の〈私〉を、震災や自然や現実に対峙させて〈こえ〉をあげて命の歌をうたうことである。

この度は、短歌四八一人の八一五首集まった。小学生から八十代の方々の投稿があり嬉しいことであった。

今回は最優秀賞(一点)優秀賞(五点)佳作(四十四点)入選(五十点)の百首を選んで表彰し、「城崎百人一首」として冊子にして記念した。


最優秀賞
    師走しわすの日アラレ降るなりカニ王国には帰ろう津波の引き地へ
    宮城県仙台市 佐藤春夫

    師走のひと時を城崎の「カニ王国」で過ごされたのであろう。そして「津波の引地」である故郷の仙台に帰られていく悲喜を読み込まれたものである。


    優秀賞
    • 本好きへ城崎みやげはしおりとすオンリーワンの麦わら細工

      京都府京丹後市 谷口利枝

      手づくりで世界に1つしかない城崎の「麦わら細工」の栞を「本好き」の人に贈られたのであろう。

    • この国をおそいしさん忘れまじ芽吹く柳に両手合わせる

      兵庫県神戸市 水田 明

      東日本大震災を「この国」の大惨事としてとらえ、それを城崎に「芽ぐむ柳」に願って慰謝する歌である。祈りと訴えこそ短歌の本質である。

    • 城崎の名湯にこそ招きたし仮設暮らしのさいの人ら

      兵庫県宝塚市 田口晶子

      震災で罹災した人に「城崎の名湯」をこそ、招きたいという。「歌」とは、祈念であり、叫びであり、訴えである。

    • ひとごと新芽伸びたる川沿の柳ながむる太鼓橋たいこばしかな

      兵庫県豊岡市 山田まゆみ

      今年はとても雪がおおかったと聞く。冬のカニざんまいの最高の時を越えて城崎にも春が待たれる。結句の「太鼓橋」がとてもよく効いている。

    • 通されし部屋に残れるかにの香を胸いっぱいに吸いこむ幸せ

      兵庫県神戸市 松下幸子

      通された部屋にも「蟹」のほのかなうつり香が残されて、迎えてくれているのである。「胸いっぱい」に吸い込んだ時の幸せがうたわれている。


    佳作・入選
      作品 県・市 氏名
    7 いつ迄も出て来ぬ夫を待ちてゐし「柳湯」「一の湯」そして「御所の湯」 東京都新宿区 澤柳友子
    8 蜂(はち)の死を流せし樋(とひ)も今はなく三木屋の屋根に雪の降り積む 岡山県倉敷市 加藤美奈子
    9 ベクレルもベクトルももう忘れたい城崎の湯にストレスを解(と)く 東京都町田市 小野隆志
    10 早々と蟹豊漁の無電あり糶場(せりば)清掃水打ちて待つ 京都府京丹後市 真田三郎
    11 ファミリーの真先(まさき)をかける幼子の声そちこちに城崎まひる 京都府京丹後市 岩井すみ子
    12 夏に来て春にも来たる城崎の温泉夫(つま)との思い出深し 大阪府富田林市 前田俊子
    13 ひたすらに地蔵絵(じぞうえ)守りて幾年か八十路(やそじ)を越えし雪解けの春 兵庫県豊岡市 椿野美代子
    14 秋深みしとど雨降る城崎に子や孫と来て解けゆく心 兵庫県明石市 春名直美
    15 浴衣見てサッと置かれる宿の下駄ぬくもりのせて次は柳湯 滋賀県大津市 上野房子
    16 「復興」の月影照らさんみちのくを北但地震(ほくたん)越えし城崎の月よ 北海道小樽市 高本智宏
    17 天高く逆光のなか一点の光となりてコウノトリとぶ 山口県周南市 森元英子
    18 幾年(いくとせ)も往き交う湯客(ひと)ら見守りつ大谿川の柳しだるる 兵庫県豊岡市 柴田初子
    19 陽(ひ)よ風よ柳青める大谿(おおたに)の川の瀬浅く鯉の背が見ゆ 大阪府大阪市 長岡喜春
    20 麦わらのこまかい細工(さいく)論じつつ買いもとめたる小さな箱一つ 広島県三次市 樫木静子
    21 ご褒美の外湯めぐりを楽みに母右足のリハビリ励む 神奈川県茅ヶ崎市 小西マサエ
    22 目をこらし蛍の放てる光見つ「城崎にて」の作家に倣い 奈良県奈良市 眞島正臣
    23 名月に夫婦の縁(えにし)照らされて金婚記念の妻の手をとる 大阪府大阪市 大鹿正男
    24 城崎で貰いしタオル使うとき我が家の風呂に思い出あふる 福岡県大野城市 島崎誠
    25 みちのくの眠りし魂(みたま)在る命思いて静か雪湯に降りぬ 京都府京田辺市 大和田尚子
    26 川の面(も)にしだる柳の若萌えて色鯉(いろごい)遊べる城崎想(おも)ほゆ 京都府京都市 松岡淑基
    27 二軒目の鴻(こう)の湯(ゆ)出れば春の雪ほんのり香るやうに降りたる 兵庫県神戸市 松下弘美
    28 仰ぎ見る満開桜の向こうから見下ろす月と焦点の合う 京都府亀岡市 木村明美
    29 店先に蟹並べられ湯の街の山も錦(にしき)に秋深みゆく 兵庫県豊岡市 城嶽竹弘
    30 思い出の城崎にてとのぞむ旅米寿の母に桜舞散る 兵庫県稲美町 中山真由美
    31 古(いにしへ)の震災からも復興せしこの湯の里よ希望咲かせよ 東京都小金井市 斎藤基樹
    32 君を想い浮き沈みするわが心城崎の湯に浮かべておきたい 兵庫県宝塚市 吉田梨沙
    33 柳湯に最優秀の友の句が詠まれておりぬほれぼれ眺む 京都府京丹後市 岡緋紗美
    34 湯の街の下駄音高く浴衣(ゆかた)着の口ひげ似合う青年の群 兵庫県川西市 佐保田全弘
    35 ロケットの目指すは宇宙ステーションこうのとりとう名にて飛び立つ 兵庫県丹波市 黒田貴美子
    36 こがね髪(がみ)ゆらして乙女ら城崎の湯の街を行く皆ゆかた着て 千葉県習志野市 黒澤修子
    37 城崎は湯よし散策極楽寺(ごくらくじ)漫陀羅橋(まんだらはし)を渡り帰へり来(く) 大阪府寝屋川市 平岩照美
    38 鴻の湯の由来ひもとくコウノトリ語る湯番の笑顔ぞや良し 兵庫県高砂市 三嶋勝徳
    39 闇を裂(さ)き覗(のぞ)ける三日月今の世の不条理なるをいかに見るべし 山口県下関市 大賀キヌヱ
    40 あなたとの一ミリの隙間雪で埋め溶けゆくまでの時を楽しむ 佐賀県佐賀市 木下美樹枝
    41 まんだらの湯に入り心経唱へれば妻も唱へしと共にぽかぽか 千葉県銚子市 三浦好博
    42 新緑に女神の使者のコウノトリ城崎の空悠然と飛ぶ 埼玉県新座市 関正雄
    43 下駄の音ひびくもうれし川縁(かわべり)を肩ならべつつまんだら湯尋(と)う 埼玉県さいたま市 山﨑蕙子
    44 父と来(こ)し幼き頃の城崎は八十(やそじ)路になりても懐かしきかな 兵庫県高砂市 阿部コユク
    45 奈良時代より出湯(いでゆ)絶ゆるなくつづきゐて城崎の湯と人の言ふなり 京都府京丹後市 小石原圭治郎
    46 はじめての子ですとお腹をさする娘(こ)と温泉の中しばし楽しむ 大阪府東大阪市 山下美千代
    47 カラフルの浴衣(ゆかた)も若葉に映ゆるなり老いも若きも華(はな)やぐ城崎 大阪府能勢町 吉岡昭代
    48 文学の柳並木を歩みつつ吾もひととき詠人(うたびと)になる 広島県広島市 中島洋子
    49 「城崎案内人(あんないにん)」に従(つ)きて城崎巡りたりわたしの忘れぬ町となる 兵庫県養父市 西村弘子
    50 湧き上がる入道雲を背に負いて彼方の空を舞うこうのとり 京都府京丹後市 木村嘉宏
    51 また来むと妻に言はしむ城崎の湯の巷風情(まちふぜい)と人のぬくもり 兵庫県豊岡市 谷口夋一
    52 紅葉の桜並木を散策の夫婦それぞれ風情をかもす 兵庫県尼崎市 松﨑敏子
    53 城崎の柳ふふめりすれ違う浴衣姿は着丈短かく 京都府京丹後市 佐野良子
    54 亡き母のおもかげさがす城崎にいつも笑顔の三木(みき)の若(わか)だんな 京都府宇治市 岸畑政武
    55 久久(ひさびさ)に露天湯訪えばとりどりの宿下駄並び賑(にぎ)わいの声 京都府京丹後市 前川真子
    56 浴衣着て城崎へ行く一人娘(ひとりご)の後ろ姿は亡き妻のもの 東京都足立区 長峯雄平
    57 子の孫と三代揃い外湯行き下駄の音まで三代揃う 愛知県清須市 井深靖久
    58 浴衣着て下駄からころとお湯めぐり柳の下をスイッと飛ぶ燕 大阪府箕面市 中井正男
    59 やまだしを追うたすきがけバチさばき外湯めぐりの下駄立ち止まる 兵庫県尼崎市 越智千代子
    60 慣れぬゆえゆかたまとえばあわせ逆おかみが気付きそっと耳打ち 兵庫県西宮市 石戸とも子
    61 湯あがりに体をさます雪の中ゆかたと下駄で城崎巡る 奈良県生駒市 西川佐奈子
    62 赤ちゃんを運んでくれる幸(こう)の鳥(とり)今は内定運んでおくれ 大阪府枚方市 藤井良美
    63 金婚の記念の一夜を城崎の直哉に会ふてこころ若やぐ 神奈川県大和市 栗林智子
    64 履き慣れぬ下駄と甚平夏祭り張り切りすぎの両足にまめ 山口県下関市 西泰斗
    65 温泉にゆれる卵のほの白き「10分待って」命の甘み 大阪府東大阪市 横山祥子
    66 浴衣着の模様がしるす泊まり宿行き交う人と会釈(えしゃく)嬉しき 大阪府河内長野市 峯加津子
    67 湯衣着の後ろ姿に「また、君に恋をして」そんな城崎の街 埼玉県所沢市 若山芳男
    68 浴衣着て下駄を鳴せば打ち上がる花火の音に心も躍る 山口県下関市 岩本洋樹
    69 湯の宿の好みの柄の浴衣着て昭和の恋歌くちずさむ君 千葉県松戸市 渡辺克己
    70 燃え尽きて行くかの如く桜花明日をも待たず吹雪となりぬ 千葉県松戸市 中原政人
    71 店主との世間話も楽しけれ温泉街に蟹まんを待つ 東京都新宿区 林由実
    72 風吹けば柳並木の緑の葉ゆうるり揺れてLargoの調べ 兵庫県加古川市 八尾美奈子
    73 柳湯の一番札を御守(まもり)にと子のおる父が娘(こ)と取り去りぬ 兵庫県神戸市 木下かすみ
    74 窮屈な酒落た靴より色っぽい下駄履く足の素足の友は 山口県下関市 吉冨美南
    75 足湯にて服ごとつかるおさな児を若き父親愉快にいさむ 和歌山県海南市 楠木世津
    76 下駄鳴らし外湯を巡る城崎は月も桜もおぼろに霞む 愛知県名古屋市 向田真智子
    77 生きるとは何なのですかと城崎のイモリに問うて教授されたい 東京都文京区 迫田まり
    78 水槽で重なっている蟹たちはまるで朝の満員電車 兵庫県芦屋市 樋田育弥
    79 早春に浴衣姿の乙女らのはしゃぐ声して湯けむりゆれる 岡山県岡山市 信安淳子
    80 つくばいに青空うつり紅葉(もみじ)浮く吾も着物でお茶よばれたし 京都府宇治市 久保見英子
    81 湯上がりの君を見てまた恋心これからどうぞ永くよろしく 兵庫県尼崎市 戎谷良一
    82 春の日のにわかの雨に立往生麦わら細工館に入りて 滋賀県栗東市 森野靖子
    83 志賀直哉の「城の崎にて」に魅(ひ)かれ来てすずろに歩く藤桜の下 島根県大田市 森井晃一
    84 恒例(こうれい)の至福(しふく)の旅は城崎に幾とせつづく傘寿(そつじう)すぎしも 兵庫県多可町 藤本はまゑ
    85 三十年国語の宿題「城崎にて」念願かない主人とおえる 愛知県岡崎市 足立たか子
    86 温泉で心身ともにいやされて私の心は雪どけのよう 京都府京都市 西山桃代
    87 こんなにもそばまできちゃったお月様浴衣姿の私見たさに 京都府京都市 山口栞
    88 こぞことし時はあゆみて城崎の露天に見上げる元旦の月 千葉県印西市 内藤三峰子
    89 湯上がりて新妻(にいづま)を待つひとときに我もしばしの文豪(ぶんごう)となる 兵庫県神戸市 佐藤智洋
    90 湯煙を吸込むひのき温かく包み込む愛家族の絆 大阪府大阪市 田路俊章
    91 城崎の宿にくつろぐクラス会あなたも私も子供にもどる 兵庫県新温泉町 宮元豊子
    92 雪が霰れみぞれが雨に春一番早く聞きたや安森節を 兵庫県豊岡市 燈朗
    93 平凡な紋様(もんよう)の如き麦わらの細工に隠(かく)る技(わざ)の修練 山梨県甲府市 佐野一彦
    94 親と来し城の崎に今夫(つま)ときて歩めば柳変わらずにあり 京都府京都市 伊藤和子
    95 城崎に必ずいると夫さがす40年ぶりにただひとりつかる 静岡県伊豆市 芹澤聰子
    96 城崎の柳の下で君を待つ北京(ぺきん)から来た留学生の 北海道札幌市 川口陽子
    97 城崎の足湯につかりほのぼのと母の思いで聞けば良かった 神奈川県横浜市 前田美知子
    98 こうのとり舞ひ下りる里見下ろせばコバルトの河流れゆく見ゆ 京都府京都市 道家俊之
    99 デジカメで写したなかみ銀世界蟹(かに)ざんまいと思い出話(ばなし) 兵庫県神戸市 桝見奈津江
    100 はるかなる国際宇宙ステーションへ補給物資を運ぶ『こうのとり』 京都府京都市 後藤正樹
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